研究概要 |
細胞内での情報伝達系ではしばしば蛋白のリン酸化がスイッチのon offの役目を果たす。視物質ロドプシンはリン酸化により光に対する不活性化が起こる。すなわち、リン酸化はその蛋白の機能と直接結びついている。もしリン酸化のイメージングが出来ればまさに細胞の活動のイメージングになるはずである。このような課題のもとに本研究に着手した。基本的には以下の3群の培養細胞を用いて、急速凍結、分子蒸留乾燥、包埋切片としてEELS顕微鏡により、リンの元素マッピングをおこない、それらを比較してリン酸化をリン原子の数量として検出したこの方法は観察視野内での比較定量性があり、また、これまでの元素X線微少分析に比べ分解能と検出感度に優れている。無機材料では約3〜5個の元素を検出できると言われている。 1群:PKA,PKCのinhibitorを入れ、リン酸化を極力抑えて培養した細胞 2群:phosphataseを含む培地でできるだけ脱リン酸化状態で培養した細胞 3群:正常な培地で培養した細胞 残念ながら、リン酸化の可視化はまだ成功していない。リンの元素マッピングは容易にできるようになったが、リン脂質からのシグナルが多く、リン酸化との区別が出来なかった。ただ膜および膜直下のリン元素の分布を見るとそれは均一ではなく様々なドメインを形成していた。当初はこのドメインがリン酸化かと思われたが、上述3群全てにおいて同様な傾向が認められたので、もともとの構造におけるリンの分布に由来しているものと考えられる。しかし、リンのシグナルの大半が膜を構成するリン脂質からだとすると膜を構成する脂質においてもドメインが存在することになり、そのイメージングをしたことになる。これは極めて新しい発見でラフトのようなドメインが膜に存在するという形態学的な証拠を提出したことになる。
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