自然の集団に発見された、タケノコモノアラガイ(Lymnaea stagnalis)の左右反転変異をもちいて、らせん卵割の左右極性を決定する因子の、初期発生に対する効果を検証するために本研究を行った。タケノコモノアラガイの集団は、通常は右巻に固定している。だが、単一遺伝子座の突然変異により個体発生の左右軸が反転する。この左右軸の反転は、当該遺伝子座の母性効果により決定されており、本種の場合には、右巻が左巻に対して遺伝的に優性である。 右巻に発生する運命にある受精卵を、第一卵割前に卵鞘から取り出しても、すべての受精卵が、第一卵割および第二卵割において、右巻の卵割を行った。ところが、左巻に発生する運命にある受精卵を第一卵割前に卵鞘から取り出すと、約半数のものが左巻に卵割し、他のものが右巻に卵割した。第一卵割後、第二卵割前に胚を卵鞘から取り出すと、約25%のものが右巻に卵割した。 これらの事実は、左巻に発生する左右反転体の極性が卵鞘内の物理的環境に強く依存する一方、右巻に発生する通常型はその物理的環境に依存せずに左右極性を積極的に発現できることを示している。 卵鞘から取り出した胚が、らせん卵割の方向にみる左右反転により以降の形態形成の左右極性をも反転するのか否かを決定することが今後の課題である。これまでに試した培養条件下では、卵鞘から摘出した胚は、嚢胚期にいたるまでに死亡する。この問題を克服するために、卵鞘から摘出した胚を長期にわたり正常に発生させることを可能にする培養条件を確立する必要がある。
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