今年度、我々は「脳内におけるシヌクレインファミリー蛋白の新たな機能と病態への関与を明らかにすること」を目的に研究を進めてきた。以下に得られた結果を列記する。 1.αシヌクレイン(αS)の発現は神経細胞のみならずグリア細胞や血管内皮細胞、血管平滑筋細胞にも認められることを見い出した。 2.ヒト由来グリオーマ細胞株(U251)において、αSの発現は炎症性サイトカインのひとつであるinterleukin-1βにより時間および濃度依存性に亢進した。さらに血清除去によってもmRNAおよび蛋白の発現亢進が観察された。一方、IFN-γおよびTNF-α刺激ではαSの発現レベルに変動は認められなかった。 3.培養ヒト正常アストロサイトがβSをmRNAおよび蛋白レベルで発現していることを明らかにした。蛍光免疫染色では培養アストロサイトの細胞質および核がβS陽性を呈した。さらに、ヒト脳組織を用いた免疫組織化学では前シナプスの染まりに加え、正常アストロサイトの胞体がβS陽性を呈し、この染色性はproteinase Kにより増強された。オリゴデンドロサイトにはβSの免疫原性は認められなかった。免疫電顕ではアストロサイトの核膜、リボゾームおよび粗面小胞体に反応が認められた。 今回の結果からαSが脳内の病巣修復や炎症の制御、血圧の調節にも関与している可能性を考えている。βSは前シナプスおよびアストロサイトに局在していることを明らかにした。来年度にはαSおよびβSの生理的機能の解明へ向けさらなる研究を行う。
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