研究概要 |
本研究の目的は、組織内の単一ニューロンで発現しているmRNAを解析する方法として、核酸標識物の細胞内注入を利用した新しい単一ニューロン内遺伝子発現の解析法方法を確立することにある。考案した新しい方法は次の3つのステップからなる。 (1)ガラス微小管に封入したビオチン化標識物質を顕微鏡下で目的の細胞内に注入した後、その細胞に可視光を照射して細胞内のmRNAと標識物質を結合させる。 (2)注入細胞を含む組織からmRNAを抽出したのち、注入細胞由来のビオチン標識mRNAをアビジンを用いて分離精製する。 (3)分離した標識mRNAに対するcDNAを逆転写反応により合成し、これをテンプレートとしてPCR法によって増幅する。 そこで、摘出したラット網膜を蛍光顕微鏡(オリンパスAX70)下で維持しながら、ビオチン化標識物質(PhotoprobeBiotinTM, Vector社、以下PPB)を圧注入装置を用いて網膜神経節細胞に細胞内注入した。PPBはin vitroで紫外光照射または加熱により核酸に結合する性質を持つので、蛍光顕微鏡の対物レンズを通じて注入細胞の細胞体に紫外光を5分、10分、15分、20分、または30分間照射した。注入細胞を含む網膜組織片からRNA精製キット(QuickPrep Micro mRNA Purification Kit, Amersham)を用いてmRNAを精製したが、ビオチン標識されたmRNAを検出することが出来なかった。 本法で単一ニューロンで発現しているmRNAを無傷で抽出・精製するためには、細胞内注入時に細胞を機械的に損傷する点と短時間で細胞内でPPBとmRNAを結合させるための更なる技術開発が必要である。
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