1)サルES細胞でのHprt遺伝子のノックアウト 我々独自の体細胞とES細胞の細胞融合実験系を用いて、霊長類ES細胞がもつ体細胞核再プログラム化能を検討する目的で、X染色体上にあるHprt遺伝子のノックアウトを試みた。雄XYのES細胞では、Hprtの遺伝座が1つしか存在しないため、容易にHprt欠損ES細胞を作ることが可能である。Hprt欠損ES細胞とHprt正常体細胞との融合細胞では、HAT感受性であったES細胞が耐性に変化するため、融合細胞のみが生き残る。サルES細胞のHprt遺伝子ノックアウトは、候補ES細胞の選択は完了しているが最終的な特性解析が進行中であり、結果が待たれる。Hprt欠損ES細胞が得られれば、体細胞との融合実験を行う予定である。 2)マウス融合細胞実験系を用いた体細胞核の多分化能 昨年度は、体細胞核の再プログラム化をOct4-GFP遺伝子やX染色体の再活性化をマーカーに用いて解析した。本年度は、再プログラム化された体細胞核の多分化能を解析する目的で、亜種間融合細胞を作成し、再分化後の組織特異的遺伝子発現がES細胞核または再プログラム化体細胞核のいずれに由来するかを明らかにした。融合細胞を生体内で分化誘導した奇形種での遺伝子発現を解析したところ、ES細胞核と同様に再プログラム化体細胞核からも内・中・外胚葉由来の組織特異的遺伝子が発現していることを突き止めた。融合細胞を神経特異的な培養条件下で分化誘導すると、ES細胞と同様にドーパミン産生神経のマーカー遺伝子が再プログラム化体細胞核からも発現していた。これらの結果は、細胞融合による再プログラム化体細胞核がES細胞と同様の分化能を獲得していることを明確に示しており、拒絶反応の無い個人対応のテーラーメイドES細胞を作製する新たなアプローチとして注目される。加えて、体細胞核の再プログラム化をX染色体上のXistおよびTsix遺伝子のクロマチン構造の変化としてとらえる事に成功した。
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