研究概要 |
すきまと電子系の複合自由度を活かした物質の創製と新機能の開拓を推進し,以下の成果をあげた。 1.新化合物創製班 山中らは自ら発見したSiクラスレート超伝導体よりも飛躍的に高い転移温度を有すると期待できるカーボンクラスレートの超高圧合成に取り組んだ。研究の一環として,フラーレン C_<60>三次元ポリマー単結晶の合成に成功し,構造解析により原子の配列を決定すると共に,高い電気伝導を示すことを見出した。 高畠らは層状重い電子系化合物としてYbNiSi_3を発見した。SnおよびGeのクラスレートの大型単結晶育成に成功し,内包原子のカゴの中心から外れた振動が熱伝導度を抑制していることを確かめた。伊賀らはHiSORを用いた内殻吸収線2色性実験によってYTiO_3の反強的軌道秩序のCaドープによる消失を確認した。 2.ナノ構造機能創製班 藤井らは軽元素を用いた水素貯蔵物質としてLi・Mg・窒素系ナノ複合材料をメカノケミカルな手法によって作製し,5質量%以上の水素を150℃以下の温度で吸蔵放出させた。Nb_2O_5を触媒添加したナノ複合化Mgに4.5質量%以上の水素を室温で吸蔵させ,150℃以下の温度で放出させる事に成功した。 八木は超伝導ジョセフソン接合の特性の準粒子注入による制御,電荷インバランス状態における準粒子のエネルギー分布の観測,及びクロム微小トンネル接合を用いた単一電子トランジスタの実現に成功した。 3.固体物性測定班 世良らはCe_xR_<1-x>B_6(R=Pr, Nd)系で,磁気秩序状態におけるCeの近藤状態がR=PrとR=Ndでは全く異なること,及び軌道とスピンが分離した秩序相が存在することを発見した。新たに開発した高周波表面インピーダンス法を応用し,エキゾティック超伝導体PrOs_4Sb_<12>の超伝導多重相を再現した。 鈴木らは昨年発見したCuRh_2S_4の圧力誘起超伝導体-絶縁体転移が電荷秩序と関連があることを超高圧下低温X線回折実験・伝導測定により明らかにした。ホール型LSCOおよび電子型NCCO高温超伝導体におけるインギャップ状態のバンド位置を高エネルギー光電子分光から初めて定量的に決定した。 4.固体分光測定班 宇田川らは,希土類ホウ化物RB_6でのRイオンの熱励起運動を2次のラマン散乱で観測し,RT_4X_<12>(R=La, Ce, Pd, Nd, T=Fe, Os, X=P, Sb)における強いR-P間相互作用が強いp-f混成によることを指摘した。銅酸化物超伝導体の頂点イオンの存在がCuO_2面内方向のCu-O相互作用を増強することも見いだした。 浴野はトンネル分光により,CaAlSiの強結合超伝導性を見出し,MgB_2とNbB_2の結果と総合し,AlB_2型超伝導体の普遍的性質を明らかにした。ZrNCl_<0.7>が銅酸化物超伝導体と同程度の強結合性を示す事を明らかにし,CeRhAsの擬ギャップの異方性を直接検証した。 5.放射光測定班 谷口と生天目らは,モット絶縁体Y_<0.61>Ca_<0.39>TiO_3の硬X線光電子分光実験を行い,金属-絶縁体転移に関わるフェルミ準位近傍の特異なTi3d状態を明らかにした。島田,井野らは真空紫外光を用いた高分解能角度分解光電子分光により,Ru酸化物や銅酸化物高温超伝導体のフェルミ準位近傍の準粒子状態を高精度で決定した。佐藤と澤田らはTi_2O_3の軟X線光吸収線二色性実験を行い,金属-絶縁体転移における多体効果の重要性を示した。 6.理論解析・物質設計班 小口らは,ペロフスカイト型酸化物BiMnO_3に対する第一原理計算から,強磁性の安定化機構が反強的な軌道秩序に起因していることを明らかにした。また,ハーフホイスラー型熱電物質のゼーベック係数を計算し,その電子論的起源を解明した。 城らは,強磁性体YTiO_3におけるTiL_<2.3>吸収線二色性スペクトルの解析により,Tiの3d軌道偏極を精密に決定した。田中らは,マグネタイトにおける円偏光入射2p内殻共鳴光電子分光の解析から,価電子帯頂上付近の3d電子状態について詳細な情報を得た。 永井らは,エアロジェル中の超流動液体^3He A-相の候補である非ユニタリ状態のNMRの計算を行い,周波数シフトのパルス幅依存性を予言した。不純物を含む超流動フェルミ系の音波伝搬に関して,Keldysh形式のグリーン関数法を用いた一般的な微視的理論を展開した。
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