本年度は、マウスから摘出した気道を用い、繊毛が作り出す流れを共焦点マイクロPIVシステムを用いて可視化計測した。特に、粘液粘度の影響に着目し、粘度増加による繊毛打の変化や、繊毛流れの変化を計測した。その結果、高い粘度環境下においても繊毛打は消滅しないが、繊毛打周波数は低下し、繊毛流れが遅くなることを明らかにした。また、気管と気管支における繊毛流れの違いを調べたところ、両者には大きな違いがないことが明らかになった。これらの実験により、病変等で粘液粘度が高くなった条件下における、気道内における繊毛流れの機能、および粒子の輸送効率を議論することが可能となった。こうした成果は、気道のクリアランス機能の病理を理解する上で重要であり、PCDなどの疾患のメカニズムの理解に役立つと考えられる。 さらに、修得したマイクロ流れの計測技術を生かし、微小流体流路内の血液流れなど、他の生物流れの計測も並行して行った。特筆すべきは、PDMSマイクロ流路の壁内にバイパス流路を埋め込むことで、血球成分が壁面から離れ、血漿層の厚みを増幅できることを世界で初めて示した。この壁面形状を、血液に接触する医療機器の表面に応用することで、血液の凝固や溶血などを予防できると期待される。この成果は、国際会議にて口頭発表している。こうした派生的な研究成果も、本課題の研究手法の開発に資するのみならず、特別研究員の将来の活躍の場を広げるものであり、重要である。
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