睡眠は、健康な生活を送る上で欠かすことのできない生活リズムの一部である。しかし、近年の研究では、成人の5人に1人が不眠の訴えを持っていることが報告されている。睡眠質の低下による不眠は、様々な日中障害を引き起こすことや、高血圧発症のリスクを増加させることが示されている。本研究では、「睡眠の質」に着目し、睡眠質の低下が身体機能と身体能力に及ぼす影響を検討することを目的とした。今年度は、昨年度に検討した睡眠環境(睡眠質を低下させる条件)を用い、睡眠・覚醒リズムに障害のない若年男性を対象として、環境を制御したヒューマン・カロリーメータ室にて、睡眠質の低下が翌日の身体機能と身体能力に及ぼす影響を検討した。その結果、高照度光照射により睡眠質を低下させた睡眠で、血圧、動脈スティフネス、血管内皮機能により評価した翌日の血管機能には有意な変化は認められなかった。一方、睡眠質を低下させた睡眠により、ストループテストで評価した翌日の安静時および運動中の認知機能はどちらも有意に低下した。これらの結果から、睡眠障害のない若年者における急性の睡眠質の低下は、翌日の血管機能には影響を及ぼさないが、安静時と運動中の認知機能を低下させる可能性が示唆された。
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