研究概要 |
人為起源の地球温暖化に伴う気温上昇は特に北半球高緯度で著しいと予想され, 東アジアでは冬季モンスーンの長期的弱化が予想されているが, ここ数年冬季モンスーンがかなり強く寒波・豪雪に見舞われる冬が増えている. この力学過程や予測可能性の解明は近未来の気候予測にとって極めて重要であり, これが本課題の目的である. 本課題開始以前からWang博士は予備的な解析を既に進め, 近年の冬季東アジアモンスーンの強化に伴う対流圏の惑星規模波動に見られた長期変調に関して, 既存の気象庁全球大気再解析データ(JRA25)の解析と力学診断を行い, その成果を既に3編の査読付論文として出版し, 中国で開催されるモンスーンの国際会議においても発表した. 並行して, 2012年にユーラシア大陸に記録的な寒波をもたらした大気循環異常の時間発展と維持・形成過程について, JRA25データや最新のJRA55データの解析や力学診断を開始した. その解析から, 大気循環異常の形成は1月中旬から始まり, 1月下旬から2月上旬の最盛期を経て, 2月中旬に減衰期を迎えたことが分かった. さらに, 大陸に寒波をもたらした持続的な高気圧性循環異常の発達・維持には, シベリア上空での熱輸送に伴った有効位置エネルギーの気候平均場からの効率的な変換, 高気圧性循環異常の最盛期における西欧への伸長には移動性行程圧からのフィードバック強制, 地中海沿岸域に大雪をもたらした低気圧性循環偏差の形成・維持には北大西洋から伝播してきた停滞性ロスビー波が, それぞれ重要な事が明らかにされ, 現在これらの成果を基に論文を執筆中である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
Wang博士は, 近年の冬季東アジアモンスーンの強化に伴う大気の惑星規模波動に見られた変調に関して既に3編の査読付論文を出版している. その典型例として2012年にユーラシア大陸に記録的な寒波をもたらした大気循環異常の時間発展と維持・形成過程について, データ解析や力学診断を駆使して取り組み, その結果もほぼまとまっており, 論文執筆に取りかかっている状況である.
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今後の研究の推進方策 |
2012年のケースの解析結果について論文執筆を進めるとともに, 並行してJRA55データを用いて東アジアで21世紀になって観測された寒波イベントを15例程度選定し, それらに共通する循環偏差を合成図解析により抽出する. 同様な合成図解析を, 温暖化が顕著になる以前(1960~80年代前半)に観測された寒波イベントについても適用し, 近年の寒波イベントとの共通点・相違点を明らかにする. さらに, IPCC-AR5に用いられた数値気候モデルによる現在気候再現実験データの解析に着手し, 東アジアへの寒波イベントの再現性を検証する. 得られた結果を国内外の学会で発表する. また, 中国からの共同研究者を数日間招聘する.
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