研究課題/領域番号 |
13F03023
|
研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
土屋 卓久 愛媛大学, 地球深部ダイナミクス研究センター, 教授
|
研究分担者 |
WANG Xianlong 愛媛大学, 地球深部ダイナミクス研究センター, 外国人特別研究員
|
キーワード | 第一原理計算法 / 鉄固溶効果 / 珪酸塩ペロブスカイト / 下部マントル |
研究概要 |
内部無撞着LSDA+U法および格子動力学法を組み合わせ、Fe^<3+>及びAl^<3+>を含有するMgSiO_3ペロブスカイト(MgPv)の安定不純物配置および高温高圧熱力学特性を調査した。様々な不純物配置のエネルギーを計算した結果、Al^<3+>はSiサイトを好み、高スピン状態のFe^<3+>を隣接したMgサイトに引きつけ、その結果Fe^<3+>-Al^<3+>の置換イオン対を形成することが分かった。さらに準調和近似を用いて熱力学特性を計算した結果、625mol%のFe^<3+>AlO_3成分の固溶はMgPvの体積をわずかに増加させるが、熱力学特性に対してはほとんど影響を与えないことが分かった。 得られた熱力学特性と、これまでの研究で得たフェロペリクレースに関する計算結果(Fukui, Tsuchiya, Baron, J. Geophys. Res., 2012)を組み合わせることで、下部マントル構成物質候補と考えられる鉱物集合体モデル(パイロライト、ペロブスカイタイト、オリビン)の密度・断熱体積弾性率・バルク音速を計算し、地震学的観測結果(PREM)と比較した。その結果、3つのモデルのうちパイロライトが最もよくPREMを再現することが分かった。よりSiに富む組成もよりSiに枯渇した組成も、いずれも再現性を改善することはなかった。さらにこの際特に高圧下で、MgPv中の鉄が二価の状態でMgと単独で置換する場合より、三価の状態でAl^<3+>と置換イオン対を作る場合の方が、よりPREMを再現できることが分かった。これらの結果は、高スピンのFe^<3+>を含むMgPvからなるパイロライト的な組成が下部マントルの合理的な組成モデルであることを示している。 MgPvの他、引き続きその高圧相であるMgsiO_3ポスト・ペロブスカイト(MgPPv)についても同様の計算を行った。その結果、MgPvと同様Mg席に置換したFe^<3+>では高スピン状態が安定化するが、Si席に置換したFe^<3+>では低スピン状態が安定化することが分かった。Fe^<3+>と同量のAl^<3+>が共存する場合は、Al^<3+>がSi席に置換するため、結果的にFe^<3+>は下部マントル全域の圧力範囲で高スピン状態にあることが分かった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
おおむね交付申請書に記載した研究計画の通りに研究を実施することができた。その結果、MgPv中での鉄の存在形態として、当初は想定していなかったFe^<3+>とAl^<3+>を含む場合が最もPREMをよく再現するという、新たな知見を得た。
|
今後の研究の推進方策 |
前年度に珪酸塩ペロブスカイト(MgPv)に対して行ったのと同様の方法を用いて、珪酸塩ポストペロブスカイト(MgPPv)の熱力学特性、さらにそれぞれのFe置換形式に対応するL端X線発光分光スペクトルを計算するとともに、得られた置換自由エネルギーを用いてFe及びAlを含むMgPv、MgPPvにおけるFeの電荷不均化反応について解析を行う。電荷不均化反応とは、二価の鉄イオンが三価の鉄イオンと中性の金属鉄とにわかれる現象で、鉄を含むMgPvにおいて高圧下で生じることが実験的に示唆されている。その後、2年間の研究から得られた成果を総括し、地球下部マントルの鉱物学モデルと鉄の存在形態についてまとめる。
|