ベトナムのように海岸線から低平地が広がる地域では,網状の河道網が形成されることが多く,その水源を利用して米作などの農業が進む傾向にある.一方で,海に面し低平地であることから,潮位の変化に敏感に反応した塩水の遡上が存在し,その海水を利用したエビの養殖も盛んとなることが多い.米作には塩水の進入は抑制しなくてはならない問題であり,農業および水産業の両者を良好な状態に保つためには,どの程度の淡水が網状河川内を流れており,どれくらいの距離だけ塩水が進入するかを理解する必要がある.また,河道内の塩水遡上の変化は,農業・水産業的な問題だけではなく,周辺の植生をはじめとした生物環境を大きく変化させるため,適切な現象の評価が望まれている.そこで本研究では,河川河口域で生じる塩水遡上現象を簡易的に診断するフレームワークの構築を目的としている. 容易に利用できるようにするため,工夫されたベルヌイに基づいた塩水遡上モデルを利用し,網走川,太田川,およびベトナムのRed Riverを対象とした解析を実施した.網走川においては,河川水位や潮位データを利用した塩水遡上距離に関するモデルの適用性の検討を行い,その再現性の高さを示すことができた.Red Riverにおいても同様な検討を行い,網走川同様に高い再現性を確認することができた.一方で,網状河川における淡水流量の推定に関しては,広島を流れる太田川のデルタおよびMekong Riverを対象とした再現計算を実施,よい再現性を得ることができた. 以上の成果により,新たな塩水遡上管理手法(フレームワーク)を提案することを出来たと考える.このフレームワークは,日本のみならず,発展が遅れている後進国においても容易に利用できるツールであると言える.
|