研究実績の概要 |
スリランカ,ネパール,タイの流域においてそれぞれ87, 107, 48人の住民に聞き取り調査を実施し,気温,降水量,降水のタイミング,災害リスク等について,「強く感じる」~「ほとんど感じない」までの4段階の感覚を訊いた.また,性別や年齢,収入,教育についても聞き取りを行った.これらの観測データとは別にアジアとアフリカの43の関連研究のデータを用いた.これらによって43か国12,060人の農民のデータを収集した.GCMと流出モデルを用いた将来の気温,降水量,水災害のリスクの展望値を各地域で求め,その結果と上で得た住民(農民)の意識との比較を行った.気候変動の認識と展望値の一致度を4段階で点数化し,定性的な評価から定量化した.気候変動の理解度を計る指標として,気候変動理解指数CCPI(climate change perception index)を示した. 解析の結果,以下のことを得た.1)全ての流域において67%の農民が気温上昇を感じている,2)多くの流域において約57%の農民が降雨の減少を感じている,3)わずかな流域の7%の農民が降水量の増加を感じている,4)約38%の農民が雨季が遅くなったと認識している,5)26%の研究において,農民の気候変動の認識が過去20年の気象変化によって決定づけられていることを示した,5)38%の農民が気候変動は人間活動によるものと考えている.本解析において利用されたCCPIは気候変動研究において,定性的な意識調査を定量的に評価できることを示した.CCPIは気候変動の地域の適応策を考える上で,有効なツールであるといえる.降雨は気温の変化よりも正しく農民に認識されていることが把握された.これらの比較結果は,住民の正しい気候変動の認識が大事であり,場合によっては間違った適応策を導くことがありうることを示した.
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