研究概要 |
本研究は、生物内で様々な光反応を制御するレチナールタンパク質の機能発現機構を理解し、さらにそれらを基盤とした新しい光化学・光工学的ツールの開発を目指すものである。特別研究員は、これまで物理を基礎とした化学的研究により、数多くの業績を上げてきた、最近は生体分子に対象を広げ、光受容レチナールタンパク質の反応解析を行ってきた。これら、物理から生物までの知識・経験を生かし、レチナールタンパク質の包括的理解と、光化学・光工学的応用を試みている。本研究では以下の3つの課題に取り組んでいる。 1, 新しい分子の単離・精製 2, 構造・構造変化の解析 3, 人工光受容分子・光操作ツールの開発 1,については、応用化に耐えうる安定な分子の探索を行った。その結果、超好熱菌から新しいレチナールタンパク質を発見し、サーモフィリックロドプシン・TRと命名した(J. Biol. Chem., 2013a)。この分子はこれまで見つかっているレチナールタンパク質の中で最も熱に対して安定な分子であった。2,については、これまで我々が発見してきた分子の構造および構造変化を、過渡吸収変化(可視、赤外、ラマン、蛍光)で調べるとともに(J. Phys. Chem. B, 2013,2014, Chem. Phys., 2013)、NMR分光法を用いた発色団構造の決定を行った(Angew. Chem. Int. Ed., 2014)。3,については、1および2を礎に、青色光感受性タンパク質の創成と、その特性を利用した光誘起神経活動抑制能の実証を行った(J. Biol. Chem, 2013b)。このように、基礎(分子の探索)から応用(ツール開発)にいたる包括的研究において順調に成果が出ている
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
超好熱菌由来の安定分子の発見は(TRと命名 : J. BioL Chem., 2013a)、基礎的な面ならず、材料的見地から、光化学・光工学的ツールの開発においても重要な進展となった。解析法の開拓でも原著論文4報を発表し(J. Phys. Chem. B, 2013, 2014, Chem. Phys., 2013, Angew. Chern. Int. Ed., 2014)、応用面においても、動物内での色変換体による行動制御に成功するなど成果を挙げている(J. Biol. Chem., 2013b)。既にTRを利用した光操作ツールの開発や光ディテクターの開発(投稿準備中)にも成功しており、当初の計画以上に研究が進展しているものと判断している。
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