研究課題
イネの光誘導抵抗性については、赤色光照射が半活物性病原菌Magnaporthe oryzaeに対する抵抗性を誘導することをこれまで報告してきたが、殺生性病原菌に対する抵抗性については明らかとなっていない。本研究では、イネの代表的な殺生性病原菌として知られるBipoiaris oryzaeに対する抵抗性を明らかにしようとした。切り取りイネ葉にB. oryzaeの胞子懸濁液を噴霧接種後、赤色光下、自然光下及び暗黒に保つと、赤色光下での病斑形成は自然光下や暗黒に比べて著しく抑制された。これら3条件下での病原菌の侵入行動に違いは見られなかった。また、熱処理により抵抗性発現を一時的に抑制したイネ葉に病原菌を接種した場合には、赤色光下でさえ病斑形成抑制は観察されなくなった。これらの結果は、赤色光下における病斑形成抑制が病原菌の侵入行動の抑制によるものではなく、イネの抵抗性誘導によるものであることを示した。赤色光誘導抵抗性は、照射時間に依存して強くなった。抵抗性発現に関与するイネの代謝系を明らかにする目的でフェニルアラニンアンモニアリアーゼ及びトリプトファン脱炭酸酵素の阻害剤であるα-アミノオキシ酢酸及びs-α-fiuoromethyltryptOphanをそれぞれ前処理したイネ葉に病原機を接種し、赤色光下に保った。その結果、両薬剤処理イネでは赤色光下でさえ病斑形成は抑制されなかった。この結果は、イネのB. oryzaeに対する光誘導抵抗性にはフェニールプロパノイド経路(PAL)とトリプトファン経路(TRP)が関与していることが示唆された。植物の誘導抵抗性は活物性病原菌か殺生性病原菌かのいずれか一方にのみ有効で、両タイプの病原菌に対して有効な抵抗性が同一条件下の植物に発現するということは知られていない。本研究成果は、光照射が両タイプの病原菌に有効な抵抗性を植物に同時に誘導できることを示しており、自然界では前述の2つのタイプの病原菌の攻撃を同時に受けている植物の防除を可能にする技術開発の可能性を示している。
2: おおむね順調に進展している
本年度計画した 1)赤色光照射によるごま葉枯病菌に有効な抵抗性がイネに誘導できること、また 2)抵抗性にイネのPALおよびTRYの両経路が深く関与していることを明らかにした。しかし、当初計画した遺伝子発現までには進まなかったことより、達成度を概ね順調とした
平成26年度は、抵抗性発現に関連のある遺伝子発現の解析を進める。また、病斑形成の抑制に関与するファイトァレキシンの発現や活性酸素生成など申請時の計画を推進する。また、赤色光の防除技術への応用を目指し、罹病種子を用い育苗時のごま葉枯病発生に及ぼす赤色光の影響も新たに調査する。
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