本研究は、低濃度のカルシウム条件で生育に異常を示すシロイヌナズナ変異株の解析を目的としている。カルシウムは農業上重要な必須元素であり、植物のシグナル伝達などにも重要であることが知られているが、植物が植物体内のカルシウム濃度をどのように定常的に保っているのか、低カルシウム環境にどのように適応しているのかについてはほとんどわかっていない。昨年度までに進めて来た低濃度のカルシウム条件で生育に異常を示すシロイヌナズナ変異株の遺伝解析より、原因遺伝子の存在する領域に見いだされた変異をもつ遺伝子の中から、形質転換等による実験などによって、当該遺伝子が変異株の原因遺伝子であることを確認した。この原因遺伝子は、遺伝子の発現制御に関わると推定されるタンパク質をコードすることが推定されたため、RNA sequence解析によって、ゲノムワイドに発現の変化した遺伝子を解析した。その結果、カロース合成酵素遺伝子など、カルシウム欠乏耐性に重要な遺伝子の発現に影響を及ぼしていることが明らかになった。また、カロースの分解に関与する遺伝子の発現制御も見られたことから、同定した原因遺伝子はカルシウムに応じたカロース合成を調節する遺伝子発現制御因子であることが推測された。また、このタンパク質とGFPの融合タンパク質をシロイヌナズナで発現させたところ、細胞内では核に局在する傾向が見られた。また、植物のカルシウム濃度を調査したところ、変異によって大きな影響を受けていないことが明らかになった。これらの結果から、見いだした原因遺伝子は細胞壁のカロース合成を全体的に調節する転写因子であり、その調整がうまく行われないと植物はカルシウム欠乏感受性になることが推定された。
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