研究実績の概要 |
タイはリーシュマニア症の流行がない国であったが、2006年あたりから国外に出たことのないヒトで内臓型リーシュマニア症の発生が報告されるようになり、感染種は新種の原虫(2009年にLeishmania siamensisと命名され、後にL. siamensisとL. martiniquensisの2種の感染があることが判明)であることが明らかになった。病原体を媒介するサシチョウバエやリザーバーとなる動物の調査も行われているが、病原体の伝播機構や流行地域の広がり、ヒトや動物への潜在リスクなど、緊急に解明しなければならないことは多い。本研究は、イムノクロマト法を用いた迅速簡便かつ感度・特異性の高い抗L. siamensis, L. martiniquensis抗体の検出法を確立し、流行地域でのヒトの血清診断およびヒトやリザーバーの疫学調査へ応用することを目的とする。 本年度の研究では、L. siamensisおよびL. martiniquensisからクローニングしたkinesin, hsp70, hsp83などの遺伝子から組換えタンパクを作製し、感染者血清や感染動物血清の抗原特異的な反応性を検討した。その結果、感染者や感染動物血清は、kinesinに対してより特異的に感度よく反応することが分かった。次に、L. siamensisおよびL. martiniquensisのkinesinの一部を抗原に用いたイムノクロマトのスティックを作製し、簡便かつ迅速な血清診断系の確立を試みた。これまでのところ、この検出系の感度と特異性が確認され、今後はさらなる感染者血清を用いて、本法の迅速血清診断法、スクリーニング系としての有用性を確認していきたいと考えている。一方で、タイでのリーシュマニア感染者にはHIVとの共感染も多くみとめられることから、抗体価の低い感染者も検出するためのより鋭敏な診断系へのさらなる改良も必要であると考える。
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