本研究では、蛋白質ケージを複数の金属錯体の反応場として利用し、タンデム反応を触媒する人工金属酵素を創製した。天然では、巨大な蛋白質ケージの孤立空間に複数種類の酵素が内包されることにより、基質や反応中間体の移動が制限され、逐次的な酵素反応を効率よく進行する。しかしながら、多段階反応を促進する蛋白質集合体の反応場としての理解はほとんど進んでいない。その理由は、異なる触媒中心を精密に配置する手法が確立されていないためである。我々はこれまで、蛋白質のケージ空間が金属触媒の反応場として極めて有効であることを示してきた。そこで、本研究では、ケージ状蛋白質フェリチン内部のアミノ酸置換により、異なる種類の金属化合物の数と三次元配置を精密に制御し、タンデム反応を触媒する人工金属酵素を創製することを目的とした。本手法により開発する人工金属酵素は、高難度物質変換を可能にする新しい反応場を提供するものと確信する。本研究では、金属触媒の三次元配置を精密に制御する反応場として、ケージ状蛋白質であるフェリチンを用い、以下について検証した。 (1)フェリチンケージへの異種金属錯体固定化によるタンデム反応触媒の開発: 水素化反応触媒であるIrCp*錯体と鈴木カップリング触媒であるPd(allyl)錯体をフェリチン内部に固定化する。複合体のX線結晶構造解析とアミノ酸置換によるIrとPd錯体の精密配置により水素化、鈴木カップリングのタンデム反応活性と選択性を最適化した。 (2)フェリチンケージへの金属集積反応の追跡を結晶構造解析によって達成した。
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