研究課題/領域番号 |
13F03348
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
長橋 宏 東京工業大学, 像情報工学研究所, 教授 (20143084)
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研究分担者 |
ATUPELAGE Chamidu 東京工業大学, 像情報工学研究所, 外国人特別研究員
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 線虫 / 三次元DIC画像 / 細胞分裂 / ボリュームレンダリング / オプティカルフロー / 細胞質流 |
研究実績の概要 |
理研より提供された3次元微分干渉顕微鏡による線虫の細胞分裂画像(DIC画像)を,本来の透過率に近い物理量を表す画像に変換するとともに,その内部構造を可視化するためのボリュームレンダリング法について検討を行った.DIC画像では,三次元細胞データの内部構造の判別を輝度値で行うことはできない.そのため,輝度値に基づく通常のレイ・キャスティング法では内部構造の表現は困難である.細胞質と細胞核のそれぞれの領域の輝度値分布に違いは見られないものの,目視では微妙なテクスチャ性の違いによる判別が可能である.そこで,本課題では,細胞質と細胞核の各領域から得られる複数の特徴量の統計的なモデルを構成し,このモデルに基づいて領域の分割を行った後にレンダリングを行うという手法をとった.これによって,通常のDIC画像では,表現することができない細胞の大まかな内部構造およびその時空間での変化を可視化することが可能となった. 一方,一般的に細胞分裂によって引き起こされる生化学反応を直接的に観測することは困難である.しかし,分裂によって生じる細胞質の流れを画像から観測することで,分裂時に起きている生化学反応を予測できる可能性がある.そこで,本課題では,時空間細胞画像から3次元のオプティカルフローを画像処理技術を用いて抽出し,その時間的な変化を観測し,それを効果的に可視化するシステムの構築を行った.そして,線虫の雌と雄の両細胞が存在する前核期期間,両細胞の結合による単一細胞核形成までの期間,さらに単一核の分裂までの期間を4種類のデータセットに対して手動計測し,前述のフローベクトルの時間変化との相関を求めた.そして,フローの大きさの変化が細胞分裂のフェーズと密接な関係があることを示した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定であった細胞の内部構造に関しては,混合ガウスモデルを用いることで細胞質と細胞核の各領域の統計モデルを作成した.これによって,細胞質と細胞核との自動分離が可能となった.また,この分離が可能となったことで,細胞の三次元内部構造を可視化するレンダリングが可能となった.一方,細胞分裂時に起きている細胞内の物理的な変化を得る方法として,本課題では,コンピュータビジョンの重要な手法であるオプティカルフロー検出法を導入した.細胞内の三次元オプティカルフローを抽出することで,細胞分裂に伴う細胞質の流れに相当する物理的変化を画像から観測することが可能となった.また,雌雄の各細胞が結合するまでの前核期,結合後の単一核が最初に分裂するまで,そして再度の分裂までの各期間と,フローの大きさの変化との関係を調べた.その結果,明らかにフローの変化と細胞分裂のフェーズとの間に密接な相関を見出した.これは,今後の研究の進展に大きな役割を果たすと考えている.
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度は,線虫の原始細胞(wild cell)に関する3次元オプティカル・フロー検出実験を行ったが,平成27年度では,特定の遺伝子を除いた線虫細胞の進化画像を対象に,同様のフローベクトル検出実験を行う.この際,オプティカル・フロー場における発散(divergence)や回転(rotation)を求めることで,フロー中のダイナミックスを可視化する方法について検討する. 実験では,理研より公開されているWDDD(Worm Developmental Dynamics Database)を利用する予定である.この実験を通じて線虫細胞における細胞質流の変化を観測することで,細胞膜と核膜との間での科学的物質の流れを推定するモデルについて検討する.
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