研究課題
脳は高度に発達した生体バリア(血液-脳関門(BBB))に守られているため、生理活性物質の送達が困難な部位である。そのため高齢化社会では脳神経系疾患の有病率が極めて高い一方で、それらの多くに対しては効果的な治療アプローチが見出されていない。受け入れ研究者のグループは脳血管内皮細胞に多く発現する特定受容体を介して効率的にナノ医薬品を脳実質部に送達する新規ナノ材料・方法論を開発している。昨年度までに上記の特定受容体を効率的に認識するリガンドを表層に有する直径70 nmほどのsiRNA封入型高分子ミセルの構築に成功した。本年度は、更に高分子ミセル構造体の創り込みを行った。具体的には温度応答性の三元系共重合体を調製し、ミセル形成時の温度を精密にコントロールすることで、既存のsiRNAキャリアよりもはるかに血中安定性の高い直径30 nmのミセル構築に成功した。この高分子ミセルの体内動態を評価したところ、高い脳への集積性が確認され、さらに脳神経系疾患を治療するにあたって、代表的なターゲットとなるニューロンへの取り込みにも成功した。そこでアルツハイマー病の病院タンパク質であるβ-セクレターゼをノックダウンする配列のsiRNAを封入した高分子ミセルを調製し、対象タンパク質の活性を評価したところ、全脳において30%ノックダウンすることに成功した。
1: 当初の計画以上に進展している
従来、核酸医薬を脳にデリバリーし、脳内で機能させることは困難であった。一方で、本研究においては効率的にBBBを通過し、さらにアルツハイマー病の原因物質を30%近くノックダウンすることに成功した。これらの技術はアルツハイマー病に限らず、多種多様な脳神経系疾患に適応可能な汎用性の高い技術であり、多くの展開が期待できる。
脳内においてアルツハイマー病の病因タンパク質をノックダウンすることに成功したことから、今後はアルツハイマー病モデルマウス(APP PS1マウス)を用いて、行動試験評価など実際の治療効果に関連する検討を行う。
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