研究概要:外国人特別研究員の研究テーマは,当初「ヒートポンプサイクルにおけるナノ流体の動特性の解明」として申請したが,来日後,本人の希望により,マイクロ伝熱機器の開発に重要である微細流路内の気液二相流動の薄液膜挙動の計測に変更した.具体的に,内径0.5~2 mm程度の微細流路を対象として,スラグ流および環状流における壁面付近形成する薄液膜の直接計測および理論モデリング,数値解析による薄液膜の挙動を検討した. 研究成果: 1.スラグ流における液膜厚み計測:まず,微細流路を流れるスラグ流の気泡速度と液膜厚さをレーザー共焦点変位計で計測し、液相の物性や微細流路の寸法の影響を評価した.液膜厚み計測値はキャピラリー数が大きいほど厚くなる傾向が見えるが,液相が水,エタノール,KF-96L-2csの場合は従来モデルとよく一致した結果が得られた.ただし、表面張力が低いあるいは液気密度比が小さい条件ではキャピラリー数の大きい乱流膜領域では大きいずれが生じる.詳細な検討が必要と示唆される. 2.環状流における液膜厚み計測:本研究における実験条件の多くは,液相気相共にレイノルズ数が2300以下であるが,液相の乱れの影響を考慮することで実験値と一致した結果が得られた.ただし,5種類の液相内で表面張力および粘性が最も小さいFC72と,液気密度比の小さい潤滑油においては,他の液相と比べ予測の精度が悪くなり,液相の表面張力と粘性の影響に関する更なる詳細の検討が必要である. 3. 微細流路内の薄液膜挙動の数値計算:流動速度,物性による液膜厚みの変化を理解するため,自由界面流れの数値解析を行った.自由界面追跡はVOF-LEVEL SET法を用いた.計算結果からは、液膜の乱れが蒸気流速に従って大きくなり,液膜厚みが蒸気流速に従って薄くなる結果が得られた.計算した液膜厚みと実験計測との平均誤差は4.1%~20%程度であった.
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