研究概要 |
相変化材料へのナノカーボン(単層カーボンナノチューブやグラフェン)添加による伝熱制御をナノカーボンの構造制御と熱物性計測を通じて達成し, ナノカーポン添加による新規分子構造の発現および新規分子構造が熱物性値へ与える影響の解明が本研究の目的である. 本年度は着任初年度であることから実験環境の整備から開始した. まず創製した材料の熱伝導率を計測するための非定常細線装置(試料中に通した金属細線をステップ関数上に通電加熱し、このときの細線の発熱量とその温度応答から熱伝導率を測定する手法)を構築し, 熱伝導率が既知な物質を用いて装置の健全性を確認した. また相変化材料を創製する環境を整えた後に, ラウリン酸を母材とした相変化材料にグラフェンを添加することによって, 熱伝導率が大幅に向上することを確認した. 熱伝導率が向上した理由としては, 結晶粒界面にグラフェンがトラップされることにより熱輸送の経路が確保出来たからだと考えられる. また材料のナノ構造と熱物性の因果関係を理解するために, 高圧ひずみ加工(以下 : HPT加工, High Pressure Torsion)によってシリコン試料に微細構造を導入し, TDTR (Time Domain Thermo Reflectance)法により試料の熱伝導率測定を行った. HPT加工によりひずみが導入されているのが確認され, 加工条件が圧力24GPa, 10回転の場合にて熱伝導率がバルク材料の1/5程度に下がることが分かった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
昨年度の11月からの研究開始であったが, 相変化材料を創製する環境および材料の熱伝導率を計測するための非定常細線装置を短期間で組み上げたのみならず, 有機酸を母材とした相変化材料にグラフェンを添加することによって, 熱伝導率が大幅に向上することを確認した. 本研究成果をアメリカ機械学会が主催する国際会議(I-MechE, 2014年11月モントリオール)で発表予定であり, 2014年前半には雑誌論文への投稿も行える見通しである. 以上のことから当初の計画以上に進展していると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究課題として「ナノカーボン材料の添加によって発現した新規分子構造の解明」が挙げられる. 分光的手法(ラマン分光など)ならびに各種顕微鏡観察(FESEM, TEM, AFM)を駆使して, ナノカーボン材料の添加や相変化による分子構造の変化を分子・原子レベルで把握する. また「複合材の分子構造が熱輸送機構に与える影響の実験的研究」も重要な課題である. TDTR法(Time-Domain Thermal Reflectance : 非接触かつ微小空間にて短時間内に起こる熱輸送現象を高精度に測定できる)を中心に, 複合材の熱伝導率計測やナノカーボン材料と母材界面における熱輸送現象の観測を行う. 本研究で創製された新規分子構造材料における熱輸送現象を定量的に明らかし, 熱輸送機構モデルを構築する.
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