研究概要 |
本研究の目的は以下3つである。 1)河川水生昆虫カワゲラを対象として, 水質・水温・流速等の様々な環境因子の自然選択を受けた環境選択性遺伝子をゲノム中から発見する。 2)発見された環境選択性遺伝子を対象に, 環境変化に伴う遺伝的多様性劣化メカニズムをゲノム進化とタンパク進化の双方の観点から解明する。 3)上記メカニズムの理解を通じて, 「河川環境の人為的悪化→環境選択・適応的進化→遺伝的多様性の劣化」のフローを仮説として, 河川環境と遺伝的多様性の定量関係をモデル化する。 研究期間の初年度となる平成25度では, まず文献調査や日本産カワゲラの専門家との議論を通して, 環境勾配と適応分散の関係が見られることが期待される種を選定した。その後, 愛媛県, 岐阜県, 宮城県, 北海道の日本広域の複数流域を対象に, 気候, 標高, 土地利用などの環境条件が異なる地点を選定して日本産水生昆虫カワゲラを定性的サンプリングした。調査地点は17河川の23地点に及び, 最終的に1806個体のカワゲラを採取した。実験室で形態同定を行った45種の採取が確認された。現地調査では, 生物標本のサンプリングと並行して, 水温, 流速や河床条件などの物理的環境, 藻類・浮遊粒状性有機物・底生動物などのカワゲラの潜在的餌資源などの環境条件を調査した。 フィールド調査の後に開始した分子生物学的解析では, 得られた生物試料を使って, ゲノムスケールの塩基配列情報を取得するRADシークエンシングの最適な実験条件を見つけることに成功した。一部個体については, 発現解析用のRNAを抽出し, cDNAの合成(逆転写)が終了した。また, タンパク抽出および二次元電気泳動を使ったタンパクライブラリーの作成も一部終了することができた。
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今後の研究の推進方策 |
予定通り, 採取した生物試料のゲノム解析, 発現解析, タンパク解析を同時並行で進めて, ゲノム・RNA・タンパクの3レベルと河川環境条件の適応的進化条件を探る。
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