気候勾配に沿った札幌・仙台・岐阜・松山の4地域の河川から,45種・1457個体の水生昆虫カワゲラの幼生個体を採取した。また,現地で補足的に行った成虫のサンプリングにより,12種から成る89個体の成虫個体も採取した。 RADシークエンシングにより,42種の計384カワゲラ個体から,合計約160億塩基のゲノムワイドのDNA塩基配列データを収集することに成功した。解読されたゲノム上の約300万塩基において,気候勾配に沿って設定した調査地域間における一塩基多型(SNP)が検出され,気候勾配に沿った遺伝的変異がゲノム上の広域で起きていることが解明された。 タンパク質レベルのプロテオーム解析では,2次元電気泳動によるタンパク分画解析から,気温の季節間変動が大きな札幌と岐阜では,他地域よりも多様なタンパク質を発現していることが分かった.解析をした7種のカワゲラのうち,Nemoura sp. ,Rhabiopteryx japonica ,Eucanopsis sp. ,Perlodini incertaeの4種は4地域で最も温暖な松山で特異的に発現したタンパク質数が他の地域より多いことから,温暖な地域に適応的な種である可能性が示された.一方,Amphinemoura sp. とHaploperla japonica の2種は札幌で特異的に発現したタンパク質数が多いことから,寒冷な地域に適応的な種と推察された.さらに,各地域に固有に発現していた計111種類(スポット)のタンパク質を選択して,更に高度なアミノ酸配列情報等を取得するMALDI-TOF/TOFを行い,タンパク質を同定した. ゲノムワイドのmRNAの発現をトランスクリプトーム解析で調べた。7種の計46個体のカワゲラから,合計約6300万塩基のゲノムワイドのmRNA塩基配列データを収集し,411個の遺伝子のうち11個はもっとも寒冷な札幌で特異的に検出されていることがわかった.
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