研究課題/領域番号 |
13F03378
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
野地 博行 東京大学, 大学院工学系研究科, 教授
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研究分担者 |
ZHANG Yi 東京大学, 大学院工学系研究科, 外国人特別研究員
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キーワード | 酵素 / 遺伝子クローニング / タンパク質発現 / タンパク質精製 / 活性測定 |
研究概要 |
本研究では、独自に開発した1分子デジタル酵素結合免疫吸着(デジタルELISA)法を改良して、標識抗体の非特異的結合の影響を受けない超高感度デジタルELISA法の確立を目指している。デジタルELISA法では、確率的に1分子の捕捉抗体-抗原-酵素標識抗体のELISA複合体をマイクロビーズ上に固定化し、これを1個ずつ体積フェムトリットルサイズの超微小溶液チャンバに封入する。ビーズがELISA複合体を結合する場合、酵素が産生する蛍光性反応生成物がチャンバ中に蓄積するため、光るチャンバ数を数え上げるだけで抗原分子数を1分子単位で検出することができる。これまで、通常法と比較して100万倍という超高感度化に成功しており、ウィルス等の感染因子の超高感度検出への応用が強く期待されている。しかし、酵素標識抗体のビーズへの非特異的結合が原因で、超高感度デジタルELIAの再現性は低いという問題があった。そこで、本研究では、非特異的吸着する標識抗体が通常1分子であることに着目し、非特異的吸着とELISA複合体を光学的に分離したウィルス粒子を標的としたデジタルELIA法の確立を目指している。すなわち、標識抗体結合サイトを持つウィルスに2分子以上の標識抗体を結合させ、1分子ではなく、2分子以上の信号を発するチャンバ数だけをカウントすることで、真のELISA複合体だけを検出する。このためには、定量性の高い酵素反応検出が必要となる。しかし、現在用いられている標識用の酵素であるβ-ガラクトシダーゼ(β-gal)は、反応速度が毎秒10回程度と遅く、定量的な蛍光強度計測が極めて難しい。 そこで、本プロジェクトでは、まずβ-galを、蛍光アッセイ用の人工基質(FDG)に最適化するための進化分子工学実験に取り組んでいる。これまでに、野生型β-gal遺伝子をクローニングし、その配列確認を行った。その後、β-galの精製法を確立した後酵素速度論的な評価を行った結果、文献値とほぼ一致することを確認した。また、精製β-galの安定な保存条件も探索し、再現性の良い酵素評価系の確立に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本プロジェクトは、進化分子工学、顕微鏡計測、マイクロデバイス工学の融合研究である。Zhang Yi氏はこれまで酵素研究の経験が全く無かったが、これまでのJSPSプログラム期間は進化分子工学に集中して取り組み、基本的技術を習得した。比較的短い期間であることを考えると、十分に研究プロジェクトは進行していると考えてよいだろう。
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今後の研究の推進方策 |
β-galに関する構造データと変異体データを考えて、変異導入サイトを絞った変異型β-gal遺伝子ライブラリを作成する。変異型β-galの評価は、無細胞タンパク質合成系を利用した酵素活性スクリーニングを実施する。このスクリーニング系を確立するために、デジタルELISAで使用している長微小溶液チャンバアレイを用いる。酵素活性上昇と、酵素タンパク質合成量の上昇を区別するために、Venusなどの蛍光タンパク質と融合したβ-galを用いることも計画している。
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