研究課題/領域番号 |
13F03378
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
野地 博行 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (00343111)
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研究分担者 |
ZHANG Yi 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 外国人特別研究員
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 酵素 / 遺伝子クローニング / タンパク質発現 / タンパク質精製 / 活性測定 |
研究実績の概要 |
H26年度までに2つの大きな成果があがった。 1つは本プロジェクトのタイトル通りのウイルス粒子のデジタル計測である。インフルエンザのノイラミニダーゼ活性を利用した蛍光アッセイを超微小溶液チャンバーで実施することで1粒子毎のカウンティングに成功した。その結果、1mLあたり10粒子程度しか無い極めて希薄ウイルス溶液を用いても信号が検出され、PCR並みの感度が確認された。これは、当初の目論見通りELISAにおける非特異的吸着を抑えることで感度が格段に向上されたことを示す。また、興味深いことにプラーク形成数(ウイルス力価;PFU)と比較したとき、我々のデバイスで得られる信号数は数十倍大きかった。これは感染能を有するウイルス粒子数に対してノイラミニダーゼ活性を有する粒子数(PFU to virus particle ratio)が数十倍もあり、感染性粒子は全体の数%しか無いことを意味する。 本プログラムの2つ目の成果は超微小溶液チャンバー中での無細胞タンパク質合成系の確立である。精製された因子だけを含む大腸菌由来無細胞タンパク質合成系を超微小溶液チャンバー中に封入し、その合成活性を確認した。当初は、油層との相互作用や、高濃度タンパク質溶液によるデバイス表面の吸着などの問題が多発し、良好な活性を得ることができなかったが、デバイスの前処理や油層成分の検討により、ほぼ試験管内合成と遜色の無い活性を得ることに成功した。さらに1分子の鋳型DNAを確率的に封入することで1分子DNAからの転写・翻訳にも成功している。その結果、各DNA分子からの合成が非常に定量的に計測することができ、CVがおおよそ20-30%であることが分かった。本システムは注目する溶液チャンバーの内容物をマイクロピペットで回収することができるため、このシステムは進化分子工学に応用できる。今後このシステムを用いた実際の進化実験に挑む。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H26年度は、ウイルスの計測と、無細胞タンパク質合成系の両方で大きな進捗があった。 ①ウイルスの1粒子計測;インフルエンザのノイラミニダーゼ活性を計測するため市販の蛍光アッセイを用いた。溶液条件等を検討したところ、若干アルカリ側の溶液において良好な蛍光信号がとれることが分かり、インフルエンザ1粒子の検出に成功した。この手法によって計測したウイルス粒子数は、pfu値と比較して50-100倍高いことが判明した。これは、細胞に感染性をもつ粒子数は全体の1-2%しかないことを意味しており非常に興味深い。北大医学部の大場教授や東大医科研の河岡研と、この発見の解釈について議論している。 ②無細胞タンパク質合成:進化分子工学への応用を考えて、フェムトリットルチャンバー中におけるタンパク質合成を検討したところ、溶液組成や油の種類を数十種類検討することで1DNAからの合成活性が確認出来る条件を見つけ出した。これまでにβガラクトシダーゼ、YFP, GFP, RFPなどの合成能を確認した。さらに、進化分子工学応用に不可欠な、チャンバーからのDNA回収においても、マイクロガラスピペットを用いた回収実験に成功した。
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今後の研究の推進方策 |
①ウイルス1粒子計測:実用化を考えて、検出限界値を決定する。予備的結果からは1-10粒子/mLというPCR並みの感度の達成が見込めている。この手法は検出までに10分程度であるため、PCRと比較して臨床分析においても十分に優位に立てる可能性がある。今後は、より生物学的課題であるpfu値のと違いの原因を探る。無細胞タンパク質合成の実験で確立したチャンバーからの試料回収技術を利用して、ウイルス粒子を回収しゲノム構造解析を行う。 ②無細胞タンパク質合成;技術的にはH26年度でほぼ確立したため、実際のモデル酵素を用いて進化分子工学実験を行う。まずは計測しやすいβガラクトシダーゼの進化実験を行う。まず、野生型DNAを封入した際の活性の見かけの分布を精密測定し、その平均値と分散からスクリーニングの閾値を設定する。チャンバーの数を考慮してsdの4倍程度を想定している。そして、実際に変異をランダムに導入したライブラリーを用いた無細胞タンパク質合成系を実施し、スクリーニングを実践する。
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