研究課題
全脳照射後のがんの長期生存者の40-50%に遅発性認知機能障害が生じることが明らかとなり、重大な社会問題となっている。一方、国内国外を問わず依然として認知機能の障害に結びつく科学的根拠は極めて少ない状況である。本研究では、頭蓋内胚細胞性腫瘍放射線照射後10年以上経過した症例を対象に、放射線による認知機能障害のMRI機能画像による病態解明を目的とした。頭蓋内胚細胞性腫瘍は、放射線治療に高感受性、予後良好、長期生存例が多い。また欧米で原発性脳腫瘍の0.4-3.4%を占めるのに対して、日本などの東アジアでは約11%を占めるため、照射後晩発性認知機能障害の病態解明は、特にアジアで臨床的意義が大きい。1983年から1996年12月までに当院放射線治療科にて初回の放射線治療を受けた頭蓋内胚細胞腫患者34例を登録した。34症例はカルテの情報に基づいて全脳照射群(全脳群、20症例)と拡大局所照射群(局所群、14症例)に分けた。2群間で、総線量、照射時の年齢、照射後のフォローアップ期間、化学療法の併用の有無には、いずれも有意差はなかった。94%(32/34例)に放射線による微小血管損傷が検出された。微小血管損傷の数は全脳群で平均9個、局所群では平均4個であった。全脳群は局所群に比べて微小血管損傷が有意に多かった。また、高線量照射域は低線量照射域に比べて微小血管損傷の数が有意に多かった。NAA/Cr比は神経細胞密度減少の指標であり、2群間で有意差を認めなかった。以上の結果から、脳微小血管障害は全脳照射を受けた患者で高度であり、放射線による認知機能障害の一因である可能性が示唆された。研究成果を論文にまとめ、「Radiotherapy and Oncology」誌(Li L et al)に掲載された。
27年度が最終年度であるため、記入しない。
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