研究実績の概要 |
南半球のみに分布が知られるコセミクジラと北半球の後期中新世(およそ1000~500万年前)から化石種として知られるケトテリウム類の顎関節部分を機能形態学的に詳細に検討したところ,両者に共通の形態の特殊化が認められ,絶滅したケトテリウム類も吸引食(suction feeding)であったことが示唆されたことから,彼らがその祖先において同様の食性を有していたことが推定された.このことは,両系統群が祖先を共有していた可能性を論じたMarx and Fordyce (2015)の見解とも矛盾しない.なお,これら標本の比較検討の過程で,オランダ・ロッテルダム自然博物館が所蔵する上部中新統産髭鯨類頭蓋化石をケトテリウム類の新種として記載した(Marx et al., 2016).さらに,日本産の原始的な髭鯨類を記載する過程で,北米ワシントン州の下部漸新統(3200万年前)産の原始的な髭鯨類の頭蓋形態を比較研究し,これも新種として記載した(Marx et al., 2015).髭鯨類は,最初の化石記録が南極の3400万年前から知られているが,それ以降は北半球の2800万年前まで確実な化石が欠如していたことから,本新種は髭鯨類の時代的・地理的な空白を大幅に埋めることとなった. 日本産の髭鯨類化石に関しては,宮崎県総合博物館が所蔵する鯨類の上腕骨化石を詳細に記載すると共に,他の標本と数量形態学的な比較を行なった結果,これが歯鯨類と髭鯨類の分化直後の原始的な形態を残す新鯨類のものであることが明らかとなった(森ほか, 2015).これについては,2015年6月に開催された日本古生物学会2015年年会にて発表すると共に,現在同一著者により記載論文を投稿中である.また,2016年3月にはWiley&Blackwell社から鯨類進化に関する総説「Cetacean Paleobiology」を出版した.
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