研究概要 |
小穂脱落性とは麦類野生植物の成熟した種子が地面へ分散する性質のことである。ムギ類では野生種の小穂脱落性が栽培化過程で徐々に失われ、非脱落性個体が占める割合が徐々に増加し、最終的に現在のような栽培種が完成した。ムギ類脱落性から非脱落性への移行は今から一万年ほど前に開始され、数千年間のあいだ連続したゆっくりとしたプロセスあることが最近の考古学的研究によって示唆されている。 本年度はオオムギで単離された小穂脱落性遺伝子を世界各地のオオムギ品種ならびにオオムギ祖先野生種から単離し、遺伝子のコード領域および非コード領域の塩基配列を解読し、遺伝子多様性の比較、連鎖不均衡の解析、遺伝的組換えの検出、そして小穂非脱落化のパターンの解明をおこなった。また栽培オオムギにおいて小穂が非脱落化した原因突然変異を同定することに成功した。 既知の小穂脱落性遺伝子に加えて新たな小穂脱落性遺伝子を探索するためや野生オオムギの変異源EMS処理によって新たな変異集団の作成を開始した。材料に用いた野生オオムギOUH602は強い種子休眠性を持っている事で知られている。無処理の25%発芽率に比較して過酸化水素水H202の3回反復処理によって80%程度の発芽率を得る事に成功した。0,12.5, 25,50,100 mMのEMS濃度処理によって発芽率は92%から0%へ低下した。大規模集団作成のために30,35,40mMのEMS濃度処理をおこなったところ、発芽率は89.7%, 35.4%, 21.0%であった。発芽した植物は個体別に栽培し、種子稔性の調査と種子採取をおこなうところである。
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