研究概要 |
ダイズの湿害を生育初期に回避することは、水田転換畑でのダイズの栽培を可能にし、生産性の安定・向上に不可欠である。一方、生物フォトンは非破壊で継続的に観察できることから、分光分析によりタンパク質の発現状況がリアルタイムで観察可能であり、ダイズ湿害の植物体での早期検出に、生物フォトン放射を測定することにより、湿害を回避できる可能性がある。プロテオミクス解析技術を用いて冠水下のダイズの生物フォトン放射機構を解明することを目指した。本年度は、出芽期のダイズにおける冠水ストレスの影響を、形態学的・植物生理学的、光工学的(生物フォトン発生量測定)、酵素化学的に解析した。 播種後2日目のダイズに対して2日間および4日間冠水処理し経時的に根を採取し、さらに水除去後の回復過程において地上部と根を採取し試料とした。 1. 形態学的・植物生理学的解析 : 冠水ストレスからの回復過程で、ダイズの各器官(根・胚軸・子葉)における重量を測定することにより損失の程度を解析した。結果、特に根において根端部分の欠失を観察したが、水除去により側根形成により回復した。 2. 光工学的解析 : 非破壊系および組織抽出物について、生物フォトンの発生量を測定し、形態学的・植物生理学的解析結果と比較した。結果、他の器官と比較して根において冠水処理により、顕著に生物フォトンが照射された。この傾向は非破壊系および組織抽出物について同じであった。 3. 酵素化学的解析 : 活性酸素発生に関与する酵素等(H202, CAT, SOD, POD, APX, GR, LOX, NADPH等)を測定し、量的変化と生物フォトンの発生量を比較した。結果、全ての酵素が冠水下で変動するが、特に、冠水下でアスコルビン酸ペルオキシダーゼを活性化した時に、生物フォトン放射が向上することが明らかになった。 以上、ダイズ冠水ストレス下での生物フォトン放射にアスコルビン酸ペルオキシダーゼを介する機構の関与を示唆した。
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