研究課題/領域番号 |
13F03705
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
高田 彰二 京都大学, 理学研究科, 教授
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研究分担者 |
KRAH Alexander 京都大学, 理学研究科, 外国人特別研究員
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キーワード | F型ATP合成酵素 / εサブユニット / 分子動力学シミュレーション |
研究概要 |
F型ATP合成酵素は、殆どすべての生体におけるATP合成の主役である。それは、電気化学ポテンシャルの勾配を用いてATPを合成する。可逆的に、ATPを使って加水分解することでイオンを膜透過させるポンプとしても働く。興味深いことにATPの浪費を回避する仕組みは、真核生物と細菌で異なる。細菌ではεサブユニットがATP濃度依存的にATPの加水分解を阻害しているのに対して、哺乳類ではpH依存的に、制御タンパク質IF_1がATP加水分解反応を阻害している。結晶構造解析によって、thermophilic Bacillus PS3のεサブユニットの2量体型が知られている。ただこれは機能的な2量体ではなく結晶化による人為的なものと考えられている。機能的な状態であるモノマーの構造は得られていない。そこで、まず我々は、孤立したthermophilic Bacillus PS3のεサブユニットについて、2量体構造からとったモノマー構造から始め、計算構造解析を行った。また、ホモロジーモデリングによってBacillus subtilisのεサブユニットの計算を行うとともに、いくつかの変異体についても計算を行った。まず我々は、ATP結合サイトが、結晶構造で言われるものと異なることを見出し、計算によって変異体のATP結合構造を予測した。いくつかの残基は大きな揺らぎを示した。今後εサブユニットのATPセンサーをよく理解するためには、我々の計算結果を実験的に検証する必要がある。次に、Bacillus subtilisのεサブユニットにおいて、これまで知られていなかったMg^<2+>結合サイトを見出した。それは二つのグルタミン酸付近にある。さらに、ある力場計算では、プロトン化状態に依存する結果を得た。すなわち、細菌のATP合成酵素においても、従来から知られていたATP濃度依存性に加えて、哺乳類と同じようなpHに依存したATP加水分解阻害機構が、存在しているのかもしれない。これをさらに明らかにするため、平均場ポテンシャル(自由エネルギー面)とpK_aを計算していく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
F型合成酵素のF1部分のεサブユニットについて、ATP結合のシミュレーション、自由エネルギー解析が順調に進んでいる。粗視化モデルによる動態のシミュレーションはやや遅れ気味であるが、一方、εサブユニットへのMg結合に関して当初計画以上の新しい知見を得ており、全体としてはほぼ順調と考える。
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今後の研究の推進方策 |
F1部分のεサブユニットについて、ATP結合のシミュレーション、自由エネルギー解析について、近々、論文を執筆し結果をまとめるとともに、粗視化分子シミュレーションによるε阻害についての研究を進める予定である。
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