研究実績の概要 |
F型ATP合成酵素のATP加水分解阻害機構は、哺乳類と細菌でまったく異なっている。哺乳類では、pH依存的に、阻害タンパク質IF1が阻害作用を引き起こすのに対して、細菌では、ATPと、種によってはマグネシウムと, によってεサブユニットが阻害作用を起こしている。この差異を利用すると、εのATP/マグネシウム結合サイトをターゲットにして薬剤を設計できれば、副作用の少ないものになることが期待できる。 昨年度我々は、Bacillus subtilisのεサブユニットにおける、これまで知られていなかったMg2+ 結合サイトを明らかにした。この機能的意味を明らかにするために, 今年度我々は、配列上にているBacillus anthracisのεサブユニットの計算を行ったが、Bacillus anthracisにおいては対応するMg2+結合サイトは機能しないことがわかった。 また、Bacillus subtilisのεサブユニットにおいて、Mg2+結合を阻害するようなアミノ酸変異を計算モデルに導入し、その変異の効果を調べた。 さらに、thermophilic Bacillus PS3のεについて、ATP結合サイトの研究も実施した。この種では、ε結晶構造がダイマーとして得られているが、機能状態はモノマーである。結晶構造において、ATP結合サイトはダイマーの境界にあり、実際、ATP分子は二つのε分子に配位している。そこで、εモノマーについて100nsの分子動力学シミュレーションを行い、それに基づいてATP結合について研究した。ATPを取り巻くArgのコンフォメーションが大きく変化していることが明らかになった。
|