ほ乳類の脳は、胎生期におおまかな形態と神経回路の配線を行った後、生後の環境からの入力に合わせて大規模な再配線を行う。特にこの再配線の時期には軸索誘導されたプレ側のアクソンがポスト側の細胞と接合し新たな遺伝子発現を誘導、神経回路の再配線につながっていると考えられるている。そこで、生後の入力依存的な神経回路再編成の分子メカニズムを明らかにする目的で以下の研究を行った。まず視床底腹側核から伸びる軸索が、大脳皮質体性感覚野内の細胞と接続する事により誘導される遺伝子の検索を行った。視床軸索が欠損する遺伝子改変マウスを用いてマイクロアレイを行った結果、15個の遺伝子を単離した。現在はこれらの遺伝子の大脳皮質細胞での機能を明らかにするための機能検査を行っている。次に、視床軸索からどのようにして大脳皮質細胞で新たな遺伝子発現を誘導するのか、そのメカニズムを明かにするために軸索末端に特異的に発現するmRNAの単離を行った。mRNAに結合するリボソームを用いたプルダウンアッセイにより、軸索末端に発現するmRNA(約3000個)を単離する事に成功したため、方法論が正しい事が明らかになった。この結果は次に大脳皮質視覚野へ投射する視床からの軸索でも同様の実験を行い、発現するmRNAの比較により、視床底腹側核細胞の軸索特異的に発現するmRNAを同定する。先のマイクロアレイの実験で得られた15個の大脳皮質に発現する遺伝子の発現にどのように寄与するのか明かにして行く。具体的には、候補因子の視床への過剰発現や異所的発現を行い、15個の遺伝子の発現誘導が起こるのかを明らかにして行く。
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