本研究では、次世代材料開発の基盤評価技術の確立を目指し、これまで定性的にしか評価し得なかった材料内部の局所元素を、単原子カラムの精度で定量評価する技術を開発する。本技術には電子線を極限まで絞りこむ走査型透過電子顕微鏡法(STEM)をベースとし、電子線と局所原子・電子構造との様々な反応・相互作用を情報源として原子レベルでの定量化を試みる。本年度は、昨年に引き続きYSZ粒界をにおける原子分解能STEM-EDSマッピングを実験的に行い、その結果を本研究で開発した定量評価手法と高度に融合することにより、YSZの粒界偏析現象の本質的な解明を目指した。原子分解能STEM-EDSマッピングの結果、Yイオンが原子レベルで粒界の特異サイトに偏析することが明らかとなったが、Oイオンも同様に粒界に濃化する傾向があることがわかった。この結果が定量的に正しいかどうかを本開発のシミュレーションを用いて理論的に検証した結果、動力学的回折効果はOイオン濃度を実際よりも低く見積もる傾向があることがわかった。つまり、本実験で得られたOイオンが粒界に濃化するという結果は、動力学的効果では説明がつかず、YSZ粒界に本質的な材料現象であることが明らかとなった。
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