重篤な、あるいは、慢性的な障害を受けた肝臓では、未分化性を有する特殊な肝前駆細胞(LPC)が活性化して組織の再生に寄与している。LPCは、肝線維化や肝がん等の病態に関連することが長らく指摘されているものの、その実態や機序は未解明である。本研究課題では、LPCと、これの制御に関わるニッチとの相互作用に注目して、両者の性状・制御機構および肝臓の病態における役割の一端を明らかにすることを目的とした。 前年度までに、脂肪肝・線維化・LPCの誘導(胆管増生)を経て早期に肝がん発症にいたる肝病態モデルマウスを確立した。また、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを用いて、成体マウス肝臓の肝細胞をはじめとする各種構成細胞に遺伝子導入する系の構築を行った。平成27年度には、これらの実験系と、Cre-loxPシステムを用いた細胞系譜追跡系を組み合わせることで、肝がん細胞の起源・LPCの肝がんへの寄与を解析する実験を行った。その結果、上記肝発がんモデルにおいて形成される腫瘍の大部分は、肝細胞に由来することを明らかにした。一方で、腫瘍形成に先立つ段階において、肝細胞由来のLPCが出現することを示唆するデータも得られた。このような「肝細胞由来のLPC」が肝がんの起源となる可能性について、引き続き詳細な解析を進めている。 また、上述したAAVベクターによる遺伝子導入系を改変することで、マウスの胆管上皮組織での遺伝子操作を可能とする、新たな遺伝子導入系の構築に成功した。その効率および細胞種特異性を、さらに改善するための工夫・検討を行っている。 以上2点の研究成果について、国際誌にて発表するための準備を進めている。
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