研究課題/領域番号 |
13F03753
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
小柳 義夫 京都大学, ウイルス研究所, 教授
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研究分担者 |
MATOUSKOVA Magda 京都大学, ウイルス研究所, 外国人特別研究員
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キーワード | レトロウイルス / 内在性レトロウイルス / 内在化 / コアラ / 生殖細胞 / 感染性遺伝子クローン / ガンマレトロウイルス / オーストラリア |
研究概要 |
レトロウイルスはプロウイルスとして宿主のゲノムに組み込まれるという性質があり、レトロウイルスが生殖細胞に感染し、それが個体として発生すると、内在性レトロウイルス(ERV)となる。ほ乳類ではゲノムの約10%をERVが占めている。そのほとんどは変異により不活化しているが、中には胎盤で働くシンシチンなど機能をもつようになったものが相次いで発見され、ほ乳類の進化にレトロウイルスの内在化が重要な役割を果たしていることが分かってきた。しかしながら現存のレトロウイルスは、ウイルスが個体に感染しても生殖細胞には感染しない。従って、レトロウイルスの内在化過程を再現することはできず、レトロウイルスの内在化から新規機能の獲得のメカニズムは不明のままである。ところが、2006年にオーストラリアのコアラで蔓延しているコアラレトロウイルス(KoRV)は、わずか200年の間にコアラに蔓延し、しかも生殖細胞に感染し、ERVとなっていることが報告された。本年度は、KoRV-AおよびJのリアルタイムPCR検出系の開発を行い、嚢児落下したコアラの組織中のKoRV-AおよびKoRV-Jのコピー数を計測した。その結果、嚢児落下したコアラの骨髄で非常に高いKoRV-Jのプロウイルスが検出され、嚢児落下の原因の一つとして、KoRV-Jの感染が関与している可能性が示唆された。また、南方系コアラの中でKoRV-Aを保有しているコアラのKoRVのゲノム解析を行ったところ、ゲノム中に1コピーが挿入されており、変異によりウイルスとしての複製能を失っていることを明らかにした。しかしながら、θ加遺伝子領域はintactであり、マウスのレトロウイルス抵抗性因子のFv-4と同様に、抗レトロウイルス因子として機能している可能性が示唆された。レトロウイルスの内在化からわずか数百年の間に、ERVが抗レトロウイルス因子として機能を獲得したとすれば、レトロウイルスの内在化に伴う抗レトロウイルス機能の獲得が極めて早く起こった可能性を示唆する貴重な知見が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
コアラという貴重な動物由来のサンプルを利用して、レトロウイルスの内在化から抗レトロウイルス因子(restriction factor)としての機能の獲得までを観察することができつつあり、当初の計画以上の成果が上がりつつある。
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今後の研究の推進方策 |
南方系コアラで見られた内在性レトロウイルスにより、実際に外来性レトロウイルスであるKoRV-Aの感染を阻止できるか否かについて、in vitroで詳細に検討していく予定である。このことにより、レトロウイルスの内在化から機能獲得までの過程を明らかにできると考えられる。
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