研究課題
星間空間に広く観測される一連の赤外線輝線バンド(以下UIRバンド)は、多環式芳香族炭化水素(以下PAH)の構造を持つ物質に起因するものと考えられているが、具体的にどのような物質であるかは、様々な仮説が提案されており、今日に至るまで明確な同定がなされていない。UIRバンドは、遠方銀河でも検出されており、キャリアは宇宙の炭素原子の10-20%を担い、星間ガスの加熱を通じ、星間空間の物理・化学過程に大きく影響を与えていると考えられている。従って、その正体を明確につきとめることは、宇宙空間における炭素質物質の進化を理解する上で、現在の天文学の主要課題の一つである。またUIRバンドは複数からなり、プロファイルは複雑な構造を示す。バンドの強度比、中心波長の値は、キャリアの構造・物理状態を反映していると考えられるため、キャリアを明確に規定できれば、UIRバンドを放射している遠方の天体の性質の研究にも大きな寄与が期待される。本研究はこのような背景のもと、最新のUIRバンドの観測データとPAHの理論計算を比較し、星間空間におけるPAHの形態の分布、その環境による変化を明らかにすることを目的とする。特にAKARI衛星により取得された大量の銀河面および系外銀河の近赤外線分光データと、中間赤外線の撮像データを最新の理論計算による様々な形態のPAHのスペクトルと比較する。またすばる望遠鏡により取得された銀河系内天体の高空間分解能中間赤外線スペクトルとの比較も行い、これらを総合して、星間空間に存在するPAHの形態を解明とキャリア物質の同定を目指す。本年度は、AKARIにより取得された近赤外線スペクトルの解析を行い、PAHの構造と密接に関係する3.3μmバンドが少なくとも2成分で説明できることを明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
予定していたAKARIの近赤外線分光スペクトルの解析をほぼ終了し、3.3μmバンドを含むスペクトルフィットを行い、3.3μmバンドが2つの成分で説明できるなど、スペクトル解析野手法を確立し、順調に研究を進めている。
本年度明らかにした、3.3μmバンドの空間変化をより詳細に解析し、他の物理量(銀緯、あるいは天体の物理状態など)との相関を今後調べる予定である。またこれらと平行し、2つの成分からUIRバンドを放射しているバンドキャリアの構造の推定を、モデル計算と合わせて行い、どのようなキャリアが星間空間に存在しているかを明らかにする予定である。
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IAU Symposium
巻: 297 ページ: 349-352
10.1017/S1743921313016104
Proceedings of Science
巻: LCDU2013 ページ: 121 (4)