本研究は、東京・横浜地域におけるアート創造の社会的・文化的・経済的基盤を国際的比較の視点を取り入れながら探究することを、基本課題とする。2015年度の研究方法は大きく2つに分けられる。第1に、アート・文化に関わる基本動向とその社会的基盤を具体的に解明するため、アートや文化の活動を支援する組織・機関の全体像を、種々の資料・統計等を用いて明らかにした。第2に、担い手のライフヒストリーやそこから生まれる創造性の背景を検討するため、東京地区に在住するアーティストやプロデューサーなどを対象に聞き取りを重ねた。 その結果、第1に、東京のアートシーンを支える施設の分布は種類によって大きく異なることが明らかとなった。音楽は渋谷・新宿に、演劇・パフォーマンスは新宿・新橋・六本木・渋谷に、美術・ギャラリーは銀座・表参道に、それぞれ集積が見られる。第2に、集積クラスターの存在にもかかわらず、この事実は当該関係者によって意外なほど認識されていない。「集積はあるかもしれないが、それはここではなく他所ではないか」という意見が、実際のクラスター内に位置するアート関係者からたびたび示された。第3に、国際的な比較の視点で東京のアートシーンの特徴をまとめるならば、それは活発で刺激的ではあるものの、都市としての東京自身にとっては隠されたもの、あるいは十分に自己認識されていないものであると要約できる。それゆえ、東京のさらなる文化発信に向けて、次の諸点が課題となる。 1)アートシーンをより可視的にする試みに取り組むこと 2)空間をアーティストやクリエイターにとって利用しやすいものとすること 3)アートシーンを支えるスタジオ空間じたいを増やすこと 4)小規模プロジェクトや萌芽的試みにスタートアップ資金を提供すること
|