研究課題
多様な生殖戦略をもつ脊椎動物のうちで、多くの魚類のような数千から数億の仔の中で幸運かつ優れたものだけが生き残る戦略と異なり、哺乳類は性周期毎に1〜10個の卵母細胞を排卵して極わずかの仔を産んでそれを大切に育てる戦略をとってきた。成熟した哺乳類の卵巣には、胎児期に減数分裂の途中で休止した卵母細胞が5〜100万個含まれ、性周期毎に卵母細胞は卵胞とともに発育し、成熟して排卵に至る。この課程で、最終的に排卵にいたる卵母細胞の100倍以上の卵胞が発達を開始するが、99%以上が選択的に死滅し、1%未満の二次卵母細胞のみが排卵に至る。このような卵胞の選択的死滅は、より優秀で強靭な子孫を残す戦略として重要であるが、これを制御している分子機構は未解明である。本研究は、哺乳類の卵巣において繰り返される卵胞の選択的死滅を制御している分子機構を解明し、これをもとに細胞死を制御している遺伝子の発現をin vivo制御することで卵胞の発達を人為的に支配し、卵巣内に潜在する卵母細胞の有効利用を実現することを目指している。今年度と来年度は実証的研究に注力した。即ち、新規な細胞死受容体を認識するユニークなモノクロナル抗体を用いてデコイ受容体を発見・同定し、細胞死受容体を介するアポトーシスシグナルの細胞内伝達系を担うカスパーゼ系の活性化部位とタイミングをリアルタイムかつin situに解析できる新技術(蛍光エネルギー共鳴法:fluorescence resonance transfer : FRET)を開発した。また多面的機能をもつinterleukin-6が卵胞選抜に重要に関わっていることを示唆する知見を得、これが細胞膜直下に局在してアポトーシスを阻害阻害している新規因子cFLIP(新たに見いだし、遺伝子とアミノ酸配列を決定した)の発現を支配していることを突き止めた。併行して、免疫不全マウスの腎に異種移植した大型家畜の未成熟な卵胞を対象にin vivoで遺伝子導入やiRNA処理を施して、人為的制御技術の開発研究を進めた。
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