すべての生命現象は必要な遺伝情報がプログラム通りに正しく発現することにより支えられている。遺伝子発現プログラムにおいて最も重要な制御段階は「転写」であり、その制御反応に関与する蛋白質の多くはすでに同定されたと考えられるが、それらの生体内における作用機構の詳細は依然として明らかではない。本研究の目的は、生物個体における遺伝子発現を非破壊的に計測する新規手法の開発を行い、その手法を用いて真核細胞の転写制御を支える分子的基盤及びその作動原理を明らかにすることである。 今年度は、全ての生物に普遍的に存在し、将来^<31>P-NMRによる定量的なマイクロイメージングが可能と考えられるポリリン酸に着目して、新規手法の開発を試みた。近年出芽酵母においてポリリン酸の合成に必要な複数の遺伝子(PHM1-4)が同定され、これらの遺伝子の変異株は、ポリリン酸を全く蓄積できないにもかかわらず、正常に生育することなどが明らかにされている。従ってこれらの変異株を宿主として利用し、ポリリン酸合成酵素を新規レポーター遺伝子として発現させれば、ポリリン酸蓄積量を指標に遺伝子発現量を非破壊的にモニタリングできるものと考えられる。そこで実際にPHM1-4遺伝子欠損株において、種々のプロモーターの下流に融合したPHM1-4遺伝子を発現させたところ、ほぼ予想通りの結果が得られた。今後は細胞レベルでのモニタリングを可能にするべく、NMR装置の改良を進める予定である。
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