研究概要 |
「北太平洋生態系におけるサケ属魚類の栄養学と種間相互用ネットワーク」を研究課題とし, これまでに北太平洋におけるサケ属魚類の摂餌行動と栄養動態を明らかにしてきた。北太平洋におけるサケ属魚類の基本的な摂餌パターンは, プランクトン食とネクトン食に大別されることが分かった。アラスカ湾では, シロザケを除き, サケ属魚類はイカ類を卓越的に摂餌する場合が多く, シロザケの食ニッチは間接的双利共生によりクラゲ類を含む動物プランクトン食に特化していた。サケ属魚類の摂餌パターンは, ENSOのような気候イベントにより影響を受けるが, 長期的な気候変動にはそれほど影響を受けないことが分かった。ベーリング海におけるシロザケのCPUEと餌生物多様度には正の相関がみられ, 密度依存的な消費型競争の緩和が観察された。以上のことから, サケ属魚類の摂餌パターンは, 通常時は大型でエネルギー効率のよい卓越餌生物を摂餌する日和見的採餌行動をとるが, ENSO等の気候変動時にはプランクトン食とネクトン食に分かれ, 種特異的なパッチ探索型などの最適採餌行動へ変化することなどが明らかとなった。サケ属魚類の摂餌動態は, 生態系におけるその種の生態的ニッチを反映するばかりでなく, 直接効果と間接効果からなる生物間相互作用ネットワークを反映する。したがって, ネットワークは個体群の密度効果や成長や行動は消費型競争, 見かけの競争, 間接的双利共生や栄養カスケードなどにより制御されることがわかった。またサケ属魚類の栄養生態学に関する研究は, 胃内容物分析に基づくスナップショット的な摂餌パターンの解析にとどまり, 長期的な栄養動態を評価するために安定同位体比分析により生活史と回遊ルートに基づく種間相互作用ネットワークを検討した。研究成果は下記のとおりである。また, アウトリーチとして東日本大震災復興事業の東北マリンサイエンス拠点形成事業にも参画した。
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