研究実績の概要 |
1型リアノジン受容体(RyR1)は、ガスメディエータのひとつである一酸化窒素 (NO)によってS-ニトロシル化修飾を受けて活性化し、小胞体から細胞質にカルシウムイオン(Ca2+)を放出する。この現象を「nitric oxide-induced calcium release(NICR)」という(Kakizawa et al., 2012)。S-ニトロシル化修飾を受けるシステイン残基は、マウスRyR1の3636番目に該当し、この部位をアラニンに置換したノックインマウスを用いて解析を進めた。本研究では、NICRと神経細胞死の関係を明らかにし、神経疾患の治療に向けて有効な戦略を見出すことを目的としている。本年度は、以下の成果を得た。 1.カイニン酸誘発てんかんモデルマウスを作製し、海馬CA3領域における神経変性を野生型マウスとノックインマウスの間で比較した。いずれのマウスでもてんかん発作は同様に起こるが、カイニン酸投与24時間後の海馬CA3領域の神経変性は、ノックインマウスにおいて有意に軽減していた。 2.NO放出ドナー化合物NOC7を初代培養神経細胞に作用させることによって誘導される神経細胞死が、RyR1阻害薬ダントロレンによって軽減した。 3.カイニン酸誘発てんかんモデルマウスにおいて、ダントロレン投与により、海馬における神経変性が軽減した。 以上の結果は、RyR1-Cys3636のS-ニトロシル化によるNICRとてんかんに伴う神経細胞死の関係を明らかにしたものである。さらに、RyR1がてんかん重積に伴う海馬硬化症の治療標的になりうることを示唆する。この成果を日本神経科学学会、日本薬理学会年会、日本生理学会大会にて発表した。これらの結果をまとめ、論文投稿中である。
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