研究実績の概要 |
固形腫瘍の増殖には、腫瘍血管新生が必須である。腫瘍血管新生に重要な遺伝子としては、Vegf/Vegfr系、Fgf/Fgfr系、Angiopoietin/ Tie2系などが挙げられるが、まだ多くの未同定な分子機構が存在することが想定され、腫瘍血管新生時に腫瘍血管内皮細胞・腫瘍細胞にどのような遺伝子が作用しているのか包括的に探索することが極めて重要である。現在までに血管内皮細胞を欠損するVEGFR2遺伝子の欠損マウスを用いたマイクロアレイ解析から、マウス胚発生時の血管内皮細胞において高発現している遺伝子群を184遺伝子単離している。このうち、培養血管内皮細胞を用いたノックダウンモデルにより6遺伝子(Arhgef15, RhoJ, Gpr116, Lrrc33, Gcom1, Exoc3L)が血管新生促進に関与することを明らかにしている。前年度の解析結果により、Lrrc33遺伝子欠損が腫瘍増殖を抑制し、これは腫瘍血管の構造変化を伴うことが明らかとなった。今年度は、前年度で得られた結果を再確認すると共に、 Lrrc33遺伝子欠損個体における腫瘍血管の構造変化が、血管機能に影響するか否かを検討した。その結果、Lrrc33 KOでは、皮下移植腫瘍の増殖が抑制されることが明らかとなった。さらに、この個体の皮下に形成された腫瘍内部の血管では、量の増大、血管腔の肥大、脆弱性の増大が認められた。この結果は、本研究が、抗癌剤併用療法の発展に繋がる可能性を示しており、大変興味深い。また、申請者は、Lrrc33遺伝子の欠損は、発生的血管新生には影響しないことを明らかにしていることから、腫瘍血管特異的標的分子創出の可能性も期待される。今後は、血管特異的及び骨髄由来細胞特異的Lrrc33遺伝子欠損個体をそれぞれ作製することで、腫瘍血管新生におけるLrrc33遺伝子の役割を詳細に解析する必要がある。
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