平成25年度における本研究の目的は、これまでに培養細胞系で見出したアラキドン酸によるインスリン抵抗性抑制効果を動物試験によって検証すること、およびそれと並行してアラキドン酸依存的なシグナル伝達と有効なアラキドン酸代謝物を培養筋肉細胞を用いた試験によって検討することである。動物試験では予備試験としてC57/BL6マウスにコーン油、パーム油、ならびにラードを14週間混餌摂取させることにより、特に長鎖飽和脂肪酸を組成に多く含むラードによって顕著にインスリン抵抗性が誘導されることを確認したが、アラキドン酸の効果を検証するには至っていない。 L6筋管細胞を用いた試験では、アラキドン酸がパルミチン酸によって減少する乳酸産生量を正常レベルまで回復させ、また、アラキドン酸単独で処理した場合にも産生量を増加させることがわかった。グルコース取り込み量についても同様に、アラキドン酸は改善効果とともに単独で取り込み量を増加させた。これらのことはアラキドン酸がパルミチン酸とは独立して糖代謝を促進することを示している。一方でインスリン抵抗性の発症に寄与する炎症性サイトカインPKCθのリン酸化体については、アラキドン酸はパルミチン酸による増加を抑制したが、意外にも単独ではわずかに増加させた。以上のことから、アラキドン酸によるインスリン抵抗性改善効果はPKCθの活性化抑制によるものであると考えられる。 また、当初予定していたアラキドン酸カスケードの特定酵素を阻害した場合のグルコース取り込み量の測定による有効代謝物の絞り込みは実施できていないが、アラキドン酸の作用がパルミチン酸との共作用時と単独時とで効果の異なる部分があることから、パルミチン酸の作用によって増産されるアラキドン酸代謝物が特にインスリン低抗性の改善に有効である可能性が高いと考えている。
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