研究概要 |
三波川変成帯で得られた流体包有物の化学組成に関する研究に関して, 流体包有物の母相である石英の組織や, 包有物の産状様式, 包有物組成について, 総合的に考察する研究を実施した. その結果, 沈み込み帯深部の流体Li-B-Cl相対組成は, 15㎞程度の浅部ではLiには乏しくBに富み(B/Cl比が高い)主成分としてNa-HCO3に富む, また, 30-60㎞の深部ではLiおよびBに富み(Li/Cl比, B/C1比がともに高い), 主成分としてNa-Clに富む, と考えればこれまで蓄積してきたデータを総合的に説明することが出来ると考察・結論した. 地下深部流体がこのような組成を持つということは, 地表で見られる流体組成におけるLi/Cl比やB/C1比が, 地下深部からの流体の指標となり, 流体移動の経路を考察する上で重要な知見を与えてくれることを示唆する. この結果は国際シンポジウムGeofluid-3での招待講演に選ばれ講演を行ったとともに, 現在論文にまとめており, 投稿の最終調整段階である. また, 変成岩が上昇期に被った流体活動に関して, 四国中央部に産する高変成度堆積岩を用いて研究を行った. 雲母の縁部に急激な組成変化をみとめ, 組織・化学組成観察からこれは岩体の減温減圧とそれに伴う流体流入活動によるものと考えた. その組成変化を, 温度圧力変化と流体流入を踏まえて熱力学的にモデル化し, 岩体が流体流入現象を被ったのは300℃程度の条件だど推定した. 岩体の上昇温度圧力履歴を推定するため, 同岩石が含む流体包有物の詳細な形態学的研究を大型放射光施設SPing-8を用いたX線トモグラフィにより行った. 結果, 岩体の減圧パスが通った温度圧力条件(300℃・260MPa)を精度よく推定することが出来, また流体包有物が母相鉱物の結晶方位とよく対応する負結晶を示しているということを見いだした. この結果は, 現在論文にまとめており, 投稿の調整段階である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
変成石英脈中の流体包有物を用いて深部流体の特徴決定を行う上で, ①石英脈の組織, ②流体包有物の産状の二点を踏まえ, 三波川変成帯の深部/浅部に存在していた流体の化学的な特徴を明らかにした. その成果を論文としてまとめ終え, 現在Lithos誌へ投稿中である. 論文投稿までたどり着けたのは予定よりやや良好な進展と言えるが, あとは概ね計画通りと言える.
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今後の研究の推進方策 |
岩石一流体の微量元素分配挙動を調べるための固相の微量元素組成分析を検討していたが, これについては分析の困難さ・他研究者による既存データベースの拡充を受けて, 見送る予定である. 初年度の研究に於いて, 地下深部流体の特徴としてLi・B・C1相対組成でLi・Bに共に富む流体の存在が確認されたため, この流体が地上に上がってくるまでの過程でどの様に組成を変化させうるのか, 最新の熱力学データ・分配挙動データを用いてのモデル化と, 地表で観察される流体(温泉水)の組成との関係性を検討し, 地下深部での流体組成と地表への流体移送に関するモデル構築を目指す.
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