本研究では,ケニア国ナイロビ市に位置するキベラスラムを対象として,貧困世帯における燃料消費の特徴と木炭リサイクル燃料(以下ブリケット)の調理用燃料としての普及可能性について考察することを目的とした. 申請者による世帯行動調査結果からは,木炭と中心として,灯油,ブリケットなどが,それぞれの特性を活かし,その利用場面ごとの目的に応じて,複合的に利用されていることが明らかとなった.これらの世帯における燃料消費実態から,燃料消費と家計属性の関係,燃料の消費組合せのパターンの存在,及び,燃料間の代替・補完関係を線形回帰モデルにより分析した.具体的には,世帯人数と所得レベルが各燃料に対する消費支出に関する意思決定に大きな影響を与えていることが明らかとなった.また,燃料消費における組合せのパターンから,ブリケットは木炭と代替関係にあること,また,灯油とブリケットには代替関係がないことが定量的に明らかとなった. 次に、以上のような顕示選好としての燃料消費実態の分析を発展させるためには,選択実験による表明選好としての消費者評価分析により上記3燃料間の代替関係・補完関係を考察することが有効である.具体的に,燃料間の代替関係を指摘できることに加え,女性が世帯主である家計においては木炭とブリケットが灯油よりも相対的に選好されること,また,熱量当たりの価格で評価したブリケットの選択確率(他財の同価格を平均値の水準に固定した場合)は同価格と反比例の結果となるが,その程度は極めて小さいことが明らかとなった. 本研究により,関連の先行研究に対し,相対的に貧困レベルの甚だしい家計の燃料消費行動の実態を補完する分析結果が示された.また,これらの結果からは,森林破壊等の環境問題を議論する場合に必要な知見として,発展途上国の都市部における燃料消費の実態が詳細に提示された.
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