研究概要 |
本研究課題は, これまで我々の研究室で調査してきた, 大気圧プラズマジェット照射による細胞培養培地中のヒト子宮頸癌由来(HeLa)細胞内へのタンパク質導入ドメイン(Protein Transduction Domain : PTD)装飾緑色蛍光タンパク質(Green Fluorescent Protein : GFP)の導入効率向上に向けた各種パラメータの最適化, 及び, そのメカニズムの解明のための調査を目的としている. 本課題の実現により, 人工多能性幹(induced Pluripotent Stem : iPS)細胞作製はもとより, 医療・創薬など様々な分野における応用が期待できる. また, 安価な装置とニードル状プラズマによる細胞の選択性を上げることで, 生物学者への広い普及も期待できる. 以下に, 本年度実施した研究内容の概要を記す. [1]タンパク質導入後の細胞生死確認, 及び, タンパク質導入量の定量評価 PTD装飾GFPの精製に着手し一定の収量が得られたが, 所望の収量には未だ至っておらず, また, 技術の習得に多大な時間を要したため, 十分な実験及び評価を行うことができなかった. 今後はより効率的な精製と収量の確保を目指し, 来年度の上期を目標に当該実験を行う予定である. [2]プラズマジェットの物理特性評価 誘電体にガラス管とアルミナ管を用いてプラズマジェットを生成し, プラズマ進展速度や発光強度の推移, 生成種の評価などの比較を行った. その結果, 同一電圧を印加した場合, 進展速度に大差はないが, アルミナ管を用いた方が発光強度は強くなり, N_(2)^(+)などの高エネルギー粒子種の生成割合が高くなることが示された. また, プラズマ原料であるヘリウムガスへの含有水分量の違いによって, OHラジカルなどの生成される粒子種の割合に違いが見られた. [3]培地の物理特性変化の調査 大気圧プラズマジェット照射前後において, 培地の含有タンパク質成分, pH, 導電率, 紫外線透過率などの変化を調査した, その結果, これらの成分変化が細胞へ何らかの影響を及ぼすことが示唆された
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「9. 研究実績の概要」に記載の通り, 申請時の計画では「タンパク質導入後の細胞生死確認」及び「タンパク質導入量の定量評価」を実施する予定だったが, 十分な実験及び評価を行うまでには至らなかった. その一方で, 「プラズマジェットの物理的特性評価」や「培地の物理特性変化の調査」など, 当初の計画より一歩進んだ結果を得ることができた.
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題の最終目的は, 研究課題名にも記載の通り「大気圧プラズマジェットを用いた細胞内への新規タンパク質導入法の確立」である. そのため, 今後は電気的な視点(プラズマの諸特性把握)のみならず, 生物学的視点(細胞やタンパク質の諸特性把握)における解明を行うため, 学内外の有識者を交えた意見交換や取組みが求められる. 本学には, 受入研究者(電気・プラズマのプロ)に加え, 生物学の研究者(細胞・タンパク質のプロ)の方も多数在籍されているため, 今後はこれまで以上に積極的に交流を深めていきたいと考えている. 尚, 最終年度である来年度の主な目標として, 「タンパク質導入後の細胞生死確認」, 「タンパク質導入量の定量評価」, 「メカニズムの解明」, 「プラズマジェットの物理特性評価」, 「プラズマジェット装置の小型化」, 及び「研究総括」を実施する予定である.
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