研究課題/領域番号 |
13J00130
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
速水 将人 北海道大学, 環境科学院, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 繁殖様式 / 種子繁殖 / 栄養繁殖 / 開放花 / 閉鎖花 / 分子系統 / 進化 / スミレ属植物 |
研究実績の概要 |
オオバキスミレにおける繁殖様式の進化に関する課題として、(1)開放花と開放花を形成する集団と開放花のみを形成する集団の受粉様式 (2)北海道及び東北集団の繁殖様式の調査と集団間の分子系統解析を行った。(1)に関する調査では、両集団の開放花に対して受粉実験を行った。その結果、開放花と開放花を形成する集団の開放花は強制受粉でも十分結実し、さらに自動自家受粉を行うことが明らかになったが、開放花のみを形成する集団の開放花では、強制受粉でも種子生産が十分に行われず、自動自家受粉も行わないことが明らかになった。さらに開放花のみを形成する集団では、地下部の根茎を介した栄養繁殖が集団の維持に寄与していることがわかった。したがってオオバキスミレの開放花の受粉様式は集団間で明瞭に分化しており、閉鎖花を形成せず開放花でも十分な種子生産が行われない集団は、主に栄養繁殖によって集団が維持・形成されていることが示唆された。 (2)に関する調査では、開放花と閉鎖花による種子繁殖を行う“種子繁殖集団”と、閉鎖花をつけずに開放花のみ形成し、その開放花でも種子を殆ど生産せず、栄養繁殖を介して維持されている“栄養繁殖集団”の分布域を調査するため、北海道及び東北に生育する集団の繁殖特性を調査した。その後、調査集団から採取した個体の核と葉緑体DNAの塩基配列を決定して分子系統解析を行った。その結果、本種の種子繁殖集団と栄養繁殖集団は、北海道及び東北地方の広範囲に分布していることが明らかになった。また核と葉緑体DNAの系統解析の結果、種子繁殖集団と栄養繁殖集団は異なる遺伝子型を持ち、繁殖様式の違いに対応した遺伝的分化が認められた。したがって本種内では、北海道及び本州で種子繁殖集団と栄養繁殖集団に分化しており、何らかの選択圧によって繁殖様式の異なる集団間に遺伝子流動が制限され、遺伝的分化が生じていると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
野外における生態学的調査から、オオバキスミレ種内において、種子繁殖集団と栄養繁殖集団が北海道および本州の広い範囲に分布していることが明らかになった。また分子系統学的アプローチから、オオバキスミレは単系統性を示し、近縁種と遺伝的に明瞭に区別されるクレードを形成した。また、種子繁殖集団と栄養繁殖集団は異なる遺伝子型を持ち、北海道南部の隣接集団間においても、繁殖様式の違いに対応した遺伝的分化が認められた。さらに本研究では、遺伝的に同一な個体を形成する栄養繁殖集団から、種子繁殖集団よりも、多くの遺伝子型が検出されるという興味深い結果が得られた。3年目はこれら結果を踏まえ、オオバキスミレだけでなく、近縁種の繁殖様式を調査することで、日本産スミレ属に見られる異なる繁殖様式の進化的背景に迫る。
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今後の研究の推進方策 |
現在、オオバキスミレだけでなく、近縁種であるダイセンキスミレおよびキスミレのサンプルを収集し、調査および解析の範囲をさらに広げることで、オオバキスミレの繁殖様式と系統関係の比較解析を行っている。今後は、新たに日本産キスミレ類の分布域全体を網羅した集団遺伝学的な調査および解析を行う予定である。
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