本研究では、自律的に高精度温度制御が可能なループヒートパイプ(LHP)の開発を目的とし、特にLHP蒸発器の相変化を伴う多孔体内気液熱流動の解明および蒸発器最適設計方法の構築などを目指してきた。今年度は昨年度の滞在研究(IMFT)で構築したポアネットワークモデルを用いたLHP蒸発器3次元解析を名古屋大学情報基盤センターの計算機で実行できる環境を構築した。多孔体材料(熱伝導率、空隙特性)、作動流体、蒸発器形状を変化させた数百パターンの計算を行い、LHP熱性能におけるウィック熱伝導率、気液界面形状、作動流体の物性、ウィック形状、マイクロギャップ(蒸発器ケースとウィックとの隙間)などの影響を解析的に明らかにした。特にウィック形状を変化させた解析により、蒸発器ケース-ウィック-グルーブの共有する三相界線長さという性能を支配する新たなパラメータを導くことができ、軸方向に周方向グルーブを加えた3次元形状を有するウィックを製作し、LHP実験により有効性を実証した。しかし、三相界線を長くするためグルーブをマイクロオーダーの幅まで細くしたところ、性能が低下し、3次元マイクログル-ブ形状に関しては今後の課題となった。 これまでの解析は仮想的な多孔体空隙配置を仮定したものであったが、実際の形状を用いた解析により高精度化を図るため、空間分解能0.27 μmを有するX線CTにより多孔体の内部構造の観察を行い、空隙構造の三次元再構築を行った。さらに多孔体構造解析を行い3次元空隙回路網を作成した。解析結果は、実際の多孔体ネットワークを用いた解析や粒子的手法を用いた直接解析などに利用可能であると考えられ、さらなる解析の高精度化が達成され得るものである。 最後に本研究をまとめた学位論文「マルチスケール気液二相熱流動解析に基づくループヒートパイプ熱輸送機構の解明と高性能化に関する研究」(名古屋大学)が受理された。
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