研究課題
近年、量子効果を積極的に利用した素子の開発が積極的に行われており、中でも、スピン軌道相互作用(SOI)が強く働くInGaAsを母体とする二次元電子系(2DEG)の利用が注目を集めている。このInGaAs 2DEGを微細加工したメゾスコピック系は、スピンに依存する特徴的な電子輸送現象が現れることから、現在盛んに研究が行われている。一方、メゾスコピック系に現れる量子効果を検出する方法として、電流の時間的なゆらぎ、すなわち電流雑音が注目されている。中でも、伝導電子の分配過程に起因するショット雑音は、電子の挙動に関する詳細な情報を内包しており、これを用いることで、例えば、素子を伝導する電子のスピンに関する情報を得られることが予想される。本研究では、InGaAs 2DEGに作製した量子ポイントコンタクト(QPC)においてスピン分極した電流を生成し、ショット雑音によるその分極率の検出を目指した。そして、予定より早く前年度にスピン分極した電流の分極率70%を検出でき、それを英国雑誌Nature Communicationsに報告したが、その研究の中で、素子における発熱の効果が顕著に現れることが分かった。そのため、電流雑音測定を用いてその発熱の定量的な導出を行い、その結果を学会誌AIP Conference Proceedingsに報告した。これまではSOIが強く働く系としてInGaAs2DEGを用いてきたが、スピンに依存した輸送現象をより一般的に取り扱うために、同様にSOIが強く働く二次元正孔系に作製されたQPCを用いてショット雑音の測定を行った。そしてスピンの効果が寄与していると思われる0.7異常に関する検証を行い、その研究について三度の学会報告を行った。以上の研究を行うにあたって、より高精度の電流雑音測定を行うために低温アンプの改良を行った。そして、測定が難しいとされる20mKのもとでの電流雑音を高感度に測定できるアンプの作製に成功し、その結果を米国雑誌Applied Physics Lettersに報告した。
1: 当初の計画以上に進展している
InGaAs半導体におけるスピン分極の生成と電流雑音を用いた分極率の検出について、予定より早く前年度に論文発表することができ、今年度は同試料における発熱の効果を電流雑音によって定量的に求め、その結果をAIP Confbrence Pmceedingsに報告できたため。また、さらなる検出精度の向上のために低温アンプの改良を行い、それについてもApplied Physics Lettersに報告することができたため。
これまでの研究で、InGaAs2DEGに作製したQPCにおいて70%のスピン分極が生じていることを、電流雑音測定を用いて観察できた。今後は、引き続きInGaAs半導体におけるSOIの強さとスピン分極率との関係を定量的に取り扱っていくとともに、一方で、同様にSOIが強く働く二次元正孔系を用いてスピン分極の検証を行っていく予定である。また、試料素子において発熱の効果が顕著に現れることが分かってきたことで、その効果をより詳細に理解するために、不純物や欠陥の少ない非常にクリーンな系である高移動度の2DEGを用いて電流雑音測定を行っていく予定である。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (4件)
AIP Conference Proceedings
巻: 1566 ページ: 311-312
10.1063/1.4848410
Applied Physics Letters
巻: 103 ページ: 172104-1-4
10.1063/1.4826681