研究課題/領域番号 |
13J00199
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
永冶 方敬 名古屋大学, 環境学研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | アンチゴライト / 沈み込み帯 / 上部マントル / 蛇紋岩 / 構造地質学 / 岩石学 / 鉱物結晶方位 / 異方性 |
研究概要 |
当該年度は以下の3項目を実施する計画であった。各項目に対して研究実績及び成果の概要を述べる。 1. 白髪山岩体及び周辺の野外調査 今年度は計約1ケ月の野外調査を行い、基礎的な地質学的情報の収集に加え、実験室で使用する岩石試料の採取を実施した。 地質学的情報から、岩相区分図、断面図の作成や構造地質学的情報の記載を行った結果、白髪山岩体及び周辺の空間的配置関係の把握に成功した。 2. 岩石試料の分析とアンチゴライト(以下、Atg)岩体に対する考察 採取した岩石試料に対して、偏光顕微鏡、ラマン分光分析装置、SEM・EPMA装置を用いて、白髪山岩体内及び周辺の岩石の鉱物組合せと鉱物化学組成を明らかにした。 これらの情報は、今後白髪山岩体とそれを構成するAtgの起源だけでなく、それらの地球内部からの上昇プロセスの解明に必要な情報となる。 また、SEM-EBSD装置を用いて長野県八方地域の岩石試料の結晶方位を測定した。 八方地域からの岩石試料の結晶方位測定の解析結果等から、沈み込み帯浅部のAtgは強い変形によって定向配列し、その後沈み込み深部の高温領域で分解し、かんらん石が形成される際、そのかんらん石は特定の結晶方位を持って配列し、上部マントルでの異方性の原因となる可能性が示された。 これは、沈み込み帯でのAtgの振舞を理解する上で重要な成果である。 加えて、Atgの沈み込み機構を解明するために、沈み込み帯上部マントルにおけるAtgの分布範囲とその含有量の制約は極めて重要であるが、本年度、測定したAtgの結晶方位パターンを用いて、地震波異方性の観測結果に対するモデリングを行った。 その結果、琉球弧では沈み込み帯上部マントルの前弧域全体に渡ってAtgが広く分布しており、前弧域全体でAtgを含むマントルの大規模対流が生じている可能性が明らかになった。 3. 学術学会や論文誌等への投稿・発表 上記の研究成果を2件の国内シンポジウムと2件の国内学会で発表し、査読付き国際誌Earth and Planetary Science Lettersに掲載された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
白髪山岩体とその周辺岩体に対する野外調査は計約1ケ月行われており、そこで得られたデータの分析は順調に進められている。加えて、今後白髪山地域の野外調査で得られた岩石試料の分析結果との比較に、他地域で得られた岩石試料の結果を用いる予定であるが、それらの岩石試料に対する実験室での分析及び解析も既に実施されている。また、これらは当該年度、国内学会発表と国際誌への掲載という形で、研究成果となっている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、白髪山岩体から得られた岩石試料に対する実験室での分析を継続し、白髪山岩体とその周辺岩体の起源とそれらの上昇プロセスを明らかにする。 また、白髪山岩体の岩石試料から得られたアンチゴライトの分析結果と、他地域の超苦鉄質岩体の岩石試料から得られたアンチゴライトの分析結果から、アンチゴライトの変形メカニズムに関する系統的なデータを収集することで、沈み込み帯におけるアンチゴライトの変形メカニズムを検討し、それによって予想される沈み込み帯におけるアンチゴライトの挙動が沈み込み帯全体に与える影響を明らかにする。
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